道路管理者は、道路での不法行為などに対応するため、違法放置等物件に対する措置や放置車両等の移動、監督処分、代執行などができます。
概要
道路法には、様々な不法行為に対応するために監督処分から始まって代執行や告発などに至る一連の対処法が定められています。 放置車両や違法放置等物件(不法占用物件)については、それらに特化した対処法も定められています。
監督処分
監督処分とは
道路の交通上、構造上、公益上支障となる行為を排除する必要があるときは、一般に行政指導が行われ、行政指導で改善しないときに監督処分を行います。
監督処分が行えるのは、道路区域や道路予定地(道路法 第91条)、沿道区域です。 道路管理者や道路監理員は(1)のような違法や不正がある場合に、道路管理者は(2)のような適法ではあるが公益上の必要がある場合に監督処分が行えます(道路法 第71条)。
(1) 違法や不正の状態を是正するとき
○ 道路法や、道路法に基づく命令等に違反した。
例〕・みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積した(道路における禁止行為)
・みだりに道路を損傷し、又は汚損した( 〃 )
・通行の禁止又は制限に従わなかった(道路の通行禁止や制限)
・無許可で占用をした(不法占用物件の取扱い)
・限度超過車両を無許可で通行した(車両制限と特殊車両の通行許可)
・許可を得ずに道路工事などを行った(承認工事・自費工事)
・沿道区域における土地等の管理者の損害予防義務を果たさなかった(沿道区域と沿道制限)
○ この法律等に基づく許可等の条件に違反した。
○ 不正な手段によって許可等を受けた。
(2) 適法ではあるが公益上の必要があるとき
○ 道路に関する工事のためやむを得ない必要が生じた。
例〕・道路管理者が道路の新設や改築、修繕に関する工事を行うため、占用物件の移設が生じた。
・街路事業や土地区画整理事業の一環として道路工事を行うため、占用物件の移設が生じた。
○ 道路の構造又は交通に著しい支障が生じた。
例〕・通行車両の大型化により、占用物件が安全な状況ではなくなった。
○ 道路の管理上の事由以外の事由で公益上やむを得ない必要が生じた。
例〕・ダムの建設に伴って水没する道路上の電柱の撤去が必要となった。
・道路上に鉄道を敷設するため、占用物件の移設が生じた。
道路管理者が行う監督処分は次のようなもので(道路法 第71条)、従わないと罰金に処せられます(道路法 第104条)。
- 許可等の取り消し、効力の停止、条件の変更
- 工事等の中止の命令
- 道路にある工作物等の改築、移転、除却の命令
- 損害予防措置の命令
- 原状回復の命令
聴聞や弁明の機会の付与
監督処分は不利益処分のため、原則として聴聞又は弁明の機会の付与が必要です(行政手続法第13条)。 国土交通省の機関で聴聞をする際の手続きが公表されています 1) 。
公益上、緊急に不利益処分を行う必要がある場合などは聴聞や弁明の機会を付与しないことができます。 例えば、法第44条の3による違法放置等物件に対する措置をとる前段として占有者等に対し必要な措置をとることを命じる場合については、「当該物件の状態を把握できる写真等、公益上の緊急性を疎明するために必要な記録を残しておくこと」とされています 2) 。
1) 道路法第七一条第一項及び同条第二項の規定に基づく監督処分を行う場合の聴聞の手続について(平成6年9月30日 道政発第50号・道交発第83号、国土交通省 告示・通達一覧)
2) 道路法の一部改正について(平成28年9月30日 国道利第13号、 〃 )
監督処分の費用負担
監督処分による損失の補償は原則行われません。
ただし、「適法であるが公益上必要な場合」のうち、承認工事や占用許可を受けた者が「道路の構造又は交通に著しい支障が生じた」ためや、「道路の管理上の事由以外の事由で公益上やむを得ない必要が生じた」ために監督処分を受けたときは補償がされます(道路法 第72条)。
また、占用許可を受けた者が「道路に関する工事のためやむを得ない必要が生じた」ために監督処分を受けたときは、原則としてその損失は補償されませんが、社会通念上の受忍義務の範囲を超える損失が生じる場合など、補償してもよい場合もあるとされています 1) 。
1) 道路に関する工事に因り又は道路に関する工事を施行するため必要を生じた他の工事で道路管理者が自ら行わないものの取扱いについて(昭和29年9月6日道発第257号、国土交通省告示・通達一覧)
代執行
行政代執行
監督処分を行っても改善されず、下記の要件に該当するときは、行政代執行を行い、その費用を徴収することができます(行政代執行法 第2条)。
- 他の手段によってその履行を確保することが困難である
- その不履行を放置することが著しく公益に反する
行政代執行をするときは、相当の期限までに履行されないときは代執行をする旨を予め文書で戒告する必要があります。 それでも履行されないときは、代執行令書で代執行をなすべき時期や執行責任者の氏名、代執行に要する費用の概算による見積額を通知したうえで行うため、相当の時間を要します(行政代執行法 第3条)。 行政代執行に要した費用は国税徴収法の例により徴収します。
行政代執行の事例 (沿道から張り出した樹木)
神社の樹木の枝が国道16号八王子バイパスと八王子市道に大きく張り出し、信号や標識が見えにくくなり、大型トラックの荷台に枝が当たることもある状況になっていた。 地元町会が神社に剪定を申し入れてきたほか、平成29年(2017)6月から令和2年(2020)2月までに市が12回の直接訪問と、国道事務所を含め21回の文書での行政指導を行ってきたが、神社の宮司は「ご神木だからはみ出しても大丈夫」などと剪定を拒否した 1) 。
樹木の張り出しの状況(市道側)
樹木の張り出しの状況(国道側)
写真出典〕当サイト撮影(R1.9)
令和2年(2020)5月に行政代執行に移る戒告書を、6月16日に代執行令書を神社に出し、6月20日から21日にかけて、八王子市と国道事務所が行政代執行で枝の剪定を行った。 代執行中に宮司が市側に詰め寄り警察官に制止された。 行政代執行に要した費用は約1250万円で神社に請求されます 2) 3) 。
行政代執行後(市道側)
行政代執行後(国道側)
写真出典〕当サイト撮影(R2.7)
1) 令和2年度 予算等審査特別委員会(第2日目)本文 2020-03-16(八王子市議会会議録)
2) 八王子市と国、代執行でご神木伐採 周辺道路に枝葉、指導22回も神社側応じず(毎日新聞)
3) 道にはみ出た神社の木、市が伐採 迫る宮司「ご神木が」(朝日新聞)
4) 道路に越境する危ない枝葉を行政代執行で除去(道路行政セミナー 2021.3)
行政代執行の事例 (路上の商品)
中野区道を商品等で占拠し道路を長期に不正使用していた事案について、区道路課の職員と警察官が道路法第43条「道路に関する禁止行為」に違反している旨を再三にわたり口頭及び文書で指導を行ってきたが改善されなかった。 平成30年(2018)7月5日に改善指示書、同年8月10日に改善警告書により指導を行い、同年11月27日に監督処分として道路を原状に回復する命令を行った。
原因者が監督処分にも従わないため、平成31年(2019)3月26日、行政代執行法に基づき、区が代執行で商品等を除却した 1) 。
略式代執行
監督処分をしようとしても相手方が確知できないときは、道路管理者などが略式代執行(簡易代執行)をすることができます(道路法 第71条第3項)。 略式代執行を行うときには、あらかじめ行う旨の公告する必要があります。 公告の方法は特に定まっていませんが、庁舎の掲示板への掲示や公報への掲載が考えられます。
略式代執行の事例 (広告付き避難場所誘導看板)
広告付き避難場所誘導看板
写真出典〕道路行政セミナーを加工
昭和57年(1982)頃より、上の面に災害時避難場所の案内が、下の面に企業広告が掲載されている看板が道路上に占用許可なく設置され始めた。 道路管理者は、設置者に再三の口頭指導をしたが、自主撤去に応じることなく、むしろ設置本数を増加させた。 平成26年(2014)現在、指定区間に77本が設置されていた。
和歌山県が代執行を視野に入れた行動を起こす方針を決めた。 平成26年(2014)8月から代表者との接触を図ったところ、代表者本人の死亡と相続人2名が判明した。 相続人との接触を試みたところ、1名は所在不明で、もう1名からは、看板が自己の所有物では無いことと、看板撤去に異議を申し立てないとの確約を得ることができた。
和歌山県は、平成26年(2014)12月に県報に簡易代執行の実施公告を掲載し、国道事務所は平成27年3月に事務所・出張所・現地の3箇所に公告文を掲示した。 平成27年(2015)3月26日〜4月6日に看板の撤去を実施し、管内各出張所にて保管した 1) 。
1) 不法に占用していた広告付き避難場所誘導看板の簡易代執行による撤去について(道路行政セミナー 2015.9)
2) 街角の「避難誘導看板」実は許可なかった 和歌山県が撤去手続き(リンク切れ、産経ニュース)
3) 県が撤去へ 不法設置の避難誘導看板(わかやま新報)
略式代執行の事例 (鳥居)
老朽化した鳥居
写真出典〕当サイト撮影(R2.9)
静岡県静岡市の県道静岡草薙清水線(南幹線)と市道草薙神社通りの交差点にある鉄筋コンクリート製の鳥居は、表面のコンクリートが剥がれ落ちるなど老朽化していた。 鳥居は区画整理で道路が拡幅された1975年に建て直されているが、当時も所有者が不明のため区画整理法の直接施工で建てられている。 老朽化に伴って所有者を探したが経緯を知っている人を含めて見つからなかった。
令和2年(2020)3月に不明所有者に対し除却を命じる公告を行ったが除却されなかったため、9月8日から18日に代執行で除却された。
1) 南幹線の大鳥居及び石碑2基の所有者に対して除却を命ずる公告をします(リンク切れ、静岡市役所)
2) 南幹線の鳥居等を代執行委により除却します( 〃 )
3) 地元では草薙神社の大鳥居と思われていたけど…実は所有者不明 静岡市が1100万円かけて代執行で撤去へ(静岡朝日テレビ)
告発や罰則等
告発・罰則
道路法の各規定に違反した場合は、懲役や罰金に処せられます(道路法 第八章 罰則)。 監督処分に従わなかった場合の罰則も定められており、犯罪行為があると認めたときは、任意に収集した証拠を添えて告発をすることになります(刑事訴訟法 第239条第2項)。 国土交通省では、過積載車両の場合、常習違反者や2倍以上の重量超過を告発しています 1) 。
1) 「車両の通行の制限について」等の一部改正について(平成27年1月23日、国土交通省道路局)