道路の管理瑕疵(補足)

国家賠償法第2条1項

 国家賠償法第2条1項に『道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。』と定められていて、道路管理者が被害者に賠償するときの根拠は、ほとんどが本条になっています。

 「公の営造物」とは行政機関が事実上管理して公の用に供しているものをいい、普段、管理している道路より広い概念のものを指します。

 「設置又は管理の瑕疵」とはその道路が「通常有すべき安全性」を欠いている状態をいいます。

 なお、「予見可能性」や「回避可能性」がないときには管理瑕疵がないとされることもあり、被害者にも落ち度がある場合には「過失相殺」で賠償が減額されます。

国家賠償法第2条1項

 道路の設置や管理に瑕疵があったため他人に損害を生じたとき、道路管理者は国家賠償法第2条1項により、賠償の義務を負います。

 国家賠償法第2条1項により賠償する責任が生じる要件は次の2つです。

  1. 対象が公の営造物であること
  2. 設置または管理の瑕疵に基づく損害であること
国家賠償法 (昭和22年10月27日法律第125号)

第二条第一項  道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

公の営造物

 通常の道路管理を行っているときには、管理をする対象は供用を開始された道路区域のなかと考えている場合が多いと思います。 これに対して、「公の営造物」は、「国又は公共団体等の行政主体により、公の目的に供用される人的及び物的施設の総合体をさす概念である 1) 」とされていて、より広い範囲のものが「公の営造物」となります。

 「公の営造物」となる道路

 公道である都市計画法、区画整理法、自然公園法、都市公園法などの道路は「公の営造物」になります。 所有権の有無は問題とならないので、例えば、私人の土地を市区町村道としている場合なども「公の営造物」です。

 里道(法定外公共物)については、自治体が砂利を入れるなどの管理をしているものは「公の営造物」(甲府簡判平成22年12月20日)で、土地改良区が管理し自治体が管理していないものは「公の営造物」でない(大阪高判平成22年9月15日)とした判例があります。 ほぼ、自然に存在するままの里道が「公の営造物」であるか否かは学説が分かれます。

 行政の普通財産は「公の営造物」に含まれないとするのが通説です。 私人が管理する私道は設置した人が民法の土地の工作物の責任(民法第717条)を負います。

 「公の営造物」となる道路の範囲

 個別の事例を「道路の管理瑕疵」のページで説明をしていますが、不法に置かれたガスボンベ側溝に流れ込んだ熱湯による事故でも道路の管理瑕疵を問われています。 これは、不法に置かれた物件による事故は不法に置いた人の責任で、道路管理者の責任ではないという考え方は通用せず、「ガスボンベが置かれた道路」や「熱湯が側溝を流れる道路」は、「通常有すべく安全性」を欠いているので道路の管理に瑕疵があると判断されます。 同様に、沿道から張り出した樹木や倒木落石などによる事故で管理瑕疵を問われていますが、これも、「倒木や落石がある道路」は「通常有すべく安全性」を欠いているということです。

 また、自然歩道のわきに私人が設置した柵が壊れた事故(下記参照)で、自然歩道の管理瑕疵が問われています。 これは、管理区域外に私人が設置したものであっても、事実上歩道施設の一部として使用されていれば、一体のものとして管理瑕疵を問われることがあるという事例です。

秩父多摩国立公園自然歩道柵不全事件 (東京地判昭和53年9月18日)

 国立公園内の自然歩道のわきに設置されていた柵が壊れ、登山者が谷に転落した。

 判決は、「本件歩道の柵が地元観光協会の設置したものであっても、県はこれを黙認し、また事実上歩道施設の一部として使用されていた以上、本件柵も含めて県の設置管理する公の営造物と解すべき」として、自然歩道の設置者である県に瑕疵があるとした。

設置・管理の瑕疵

 公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます高知国道56号落石事件参照)

 そして、「通常有すべき安全性」の有無は、「当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき」とされています神戸市道防護柵不全児童転落事件参照

 「通常有すべく安全性」の解釈には、「客観説」と「義務違反説」の2つの学説があり、判例も事故のパターンなどによって分かれています。

 「客観説」は、「営造物の建造及びその後の維持、修繕等に不完全な点がある」ことが、「営造物が通常有すべき安全性」を欠いているとする学説で 2) 、「その損害の発生を防止するに必要な注意をしたと否とを問わず、これを賠償する責に任ずる 3) 」という考え方です高知国道56号落石事件参照。 「客観説」では、安全性に欠けるものは「期待可能性」だけが評価されて瑕疵の有無が判断されます。

 「義務違反説」は、「管理者が相当の損害防止措置を講じたか否か」で「通常有すべき安全性」を判断する学説です 2) 岐阜国道41号飛騨川バス転落事件奈良県道工事中車両転落事件参照)。 「義務違反説」では、安全性に欠けるものは「予見可能性」「結果回避可能性」「期待可能性」の3つが評価されて瑕疵の有無が判断されます。

予見可能性

 道路管理者が事故の発生を予見し得たかという観点です。

 『神戸市道防護柵不全児童転落事件』では、子供が崖上の防護柵に腰かけて遊んでいたと推認されることを、「管理者において通常予測することのできない行動」として、予見可能性がないから管理瑕疵がないという論理が組み立てられています。

 『岐阜国道41号飛騨川バス転落事件』では、落石の「発生の危険を定量的に表現して時期・場所・規模等において具体的に予知・予測することは困難であつても」、「危険があるとされる定性的要因が一応判明していて、右要因を満たしていること及び諸般の情況から判断して、当該自然現象の発生の危険が蓋然的に認められる場合であれば、これを通常予測し得るものといつて妨げない」として、予見可能性があり管理瑕疵があるという論理が組み立てられています。

回避可能性

 道路管理者が事故の発生を回避するための措置をとり得たかという観点です。

 『奈良県道工事中車両転落事件』では、工事現場のバリケードや赤色灯が直前の事故で壊された後の事故について、「それが夜間、他の通行車によつて惹起されたものであり、その直後で道路管理者がこれを原状に復し道路の安全を保持することが不可能であつた」として、回避可能性がないから管理瑕疵がないという論理で判決がくだされています。

期待可能性

 被害者が危険を回避する可能性を考慮したうえで、設置・管理水準として期待されるべきかという観点です。

 具体には、片側のみ完成したバイパスと両側が完成したバイパスが接続する、バリケード等で形が整えられた変則的な交差点で中央分離帯に車が衝突した事故について、「運転者が通常とるべき運転方法に従って運転すれば、本件のごとき事故は容易に避け得た」として、運転者の期待可能性をもとに瑕疵がないとした判例(広島地判昭和55年7月24日)があります。

相当因果関係

 道路管理者が賠償すべき損害は、道路管理瑕疵と相当因果関係がある損害です。

 例えば、前車を追い越そうとして道路の反対側の路肩の穴ぼこに落ちてハンドル操作の自由を失った後、ブレーキをかけることも忘れて約68mを左右に逸走して道路外の電柱に衝突した事故について、穴ぼこがあることを瑕疵としたうえで、事故の原因は無謀運転、運転技術の未熟、落輪後の運転措置の不適切によるものなので、穴ぼことは相当因果関係がないとして、賠償責任がないとした判例(札幌高判昭和54年4月26日)があります。

過失相殺

 道路に管理瑕疵があって、被害者にも例えば前方不注意などの過失がある場合、過失相殺により賠償額が減額されます。 過失相殺の具体例については「道路管理瑕疵」のページで説明しています。

予算抗弁の排斥

 『高知国道56号落石事件』で、「対策費用が相当の多額にのぼり予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それが賠償責任を免れうるものと考えることはできない」と判示され、予算に制約があるから対応することが不可能であるという抗弁を認めない「予算抗弁の排斥」が原則となっています。