橋梁の維持修繕

 橋梁が老朽化していくなかで、損傷が大きくなるまで修繕を先送りしていると、将来、大規模な修繕や架け替えで膨大な更新費用がかかります。
 橋梁を点検をして損傷が軽微なうちに補修や補強を行って、橋梁の寿命を延ばしていくことが必要です。

橋梁の維持修繕の根拠

 道路法第42条に『道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。』と定められています道路法 第42条

 平成25年の道路法の改正に伴い、道路法施行規則や告示、道路橋や横断歩道橋などの定期点検要領などにより、点検を必要な知識及び技能を有する者が、近接目視により5年に1回の頻度で点検を行い、結果を診断して健全から緊急措置段階までの4段階に分類し、診断結果を保存することとされました。

 維持修繕については、『劣化が進行してから修繕を行う「事後対応」型ではなく、構造物の点検を定期的に行い、損傷が軽微なうちに修繕などの対策を講じる「予防保全」型の維持・修繕を道路管理者が実施する 1) 』ため、道路法施行令で『損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること』とされています。

 我が国には道路橋が約70万橋あり、10年後には建設後50年を経過する老朽橋が4割以上になると見込まれています。

 老朽化する橋梁を、劣化が進行してから修繕したり架け替えると膨大な修繕費用や更新費用がかかため、メンテナンスサイクルを回す仕組みが必要です 1)

 点検 ⇒ 診断 ⇒ 措置 ⇒ 記録 ⇒(次の点検)というメンテナンスサイクルを構築し、「予防的な修繕等による機能の保持・回復や、耐震補強等による新設後に求められるようになった機能の確保を一体的に行い、施設に求められる性能を保持する期間を延ばすための構造物の長寿命化に取り組むべきである。」としました 2)

 今後、橋梁を供用し続けるためには、適切に点検をして予防保全的な補修・補強を行い、橋梁の寿命を延ばしていくことが必要です。

橋梁の資料調査

 橋梁の点検や補修を行う場合、その橋がどういう構造で、どの示方書で設計され、どのぐらいの交通量があり、過去にどのように補修されてきたのかという情報が判断に影響します。

 規模の大きな道路管理者は橋梁のデータベースを整備していることが多いので、データベースで概要の把握ができます。 データベースがない道路管理者であっても、法定の資料で基礎的な情報の確認ができます。 古い橋梁などでデータがない場合や、詳細な検討を行う場合には、設計図書や新設時と補修時の竣工図などを確認します。

表−点検や補修に先立って把握しておく情報
項目 把握する情報(確認する事柄) 資料の例
橋梁の構造 構造形式,規模,構造の特徴 橋梁の台帳
設計・製作・施工 設計年次,適用示方書、架設年次、使用材料の特性 橋梁の台帳、橋歴版
使用条件 交通量,大型車混入率、橋梁の周辺環境(海岸線からの距離など)、維持管理の状況(凍結防止剤の散布など)
履歴 補修・補強の時期・工法・理由、被災履歴、交通量変化(バイパス整備など) 補修の履歴、塗装版
点検結果 経年的に生じる損傷や災害等による損傷の状況(損傷の進展状況の把握) 点検の調書
点検方法 (桁下へのアクセスや橋梁点検車の要否など、現地踏査の方法の検討) 道路台帳の図面

橋梁のデータベース

 国土交通省では要領を定めて 1) 2) 、データベースに橋梁諸元データ、補修履歴データ、定期点検データ、橋梁管理カルテ、三大損傷(塩害、疲労、ASR)管理リスト、耐震補強状況リスト、塩害特定点検データを入れています 3)

 規模の大きな自治体では、国土交通省とデータの内容に違いがあるものの、独自に橋梁のデータベースや台帳を整備していることが多くあります。

法定の資料

 法定の定期点検を行った橋梁は、定期点検と診断の結果、修繕等の措置を講じたときはその内容が記録されています道路法施行規則 第4条の5の6

 橋長15m以上の橋梁は、すべての道路管理者が国土交通省に毎年度報告している「道路施設現況調査」にその諸元が記載されています道路法 第77条

 道路台帳図に橋の名称が記載され、橋調書が作られています道路法 第28条道路法施行規則 第4条の2

道路台帳の橋調書
図面対照番号 名称 箇所 延長 幅員 面積 橋種及び型式 建設年次 耐荷荷重 現況 備考
車道 歩道 路肩
                         
註 1 耐荷荷重の欄には、一車線あたりの通行することができる最大車両の総重量を記載すること。
  2 現況の欄には、自動車交通不能又は荷重制限に関する事項を記載すること。
  3 備考の欄には、橋の保全の状況その他橋の管理上必要な事項を記載すること。
図表出典〕道路法施行規則 様式第四 第四表

橋梁の点検と診断

 道路法第42条により、すべての道路管理者に『道路橋定期点検要領』や『横断歩道橋定期点検要領』に基づく定期点検が義務づけられています。

 橋梁の点検体系は道路管理者によって異なっていますが、国土交通省では、通常巡回に併せて日常的に行われる「通常点検」、法定の「定期点検」、定期点検を補う「中間点検」、特定の事象に特化した「特定点検」、災害や大きな事故が発生した場合と予期せぬ異常が発見された場合に行う「異常時点検」などを行っています 1)

 当サイトでは、別ページで橋梁の点検について紹介しています。

点検・診断結果に基づく措置

通行規制等の推移

自治体管理橋梁の通行規制等の推移(2m以上)

図表出典〕道路局 老朽化対策の取組み

https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf

 点検や診断結果に基づく措置は、最適な方法を道路管理者が総合的に検討することとされていて、次のような措置があげられています 1)

  • 補修や補強などの道路橋の機能や耐久性等を維持又は回復するための対策
  • 撤去
  • 定期的あるいは常時の監視
  • 緊急に措置を講じることができない場合などの対応として、通行規制・通行止め

 点検の診断結果がW(緊急措置段階)となった橋梁の緊急措置内容で最も多いのは「通行止め」で、「通行規制(車両、2t、4t、5.5t、8t、片側交互)」や、「仮設ベント設置」「パイプサポート支持」「仮設補強材応急措置」などの措置も講じられています 2)

橋梁の長寿命化修繕計画

 従来の事後的な修繕や架替えから、予防的な修繕や計画的な架替えへと転換を図ることにより、橋梁の長寿命化と橋梁の修繕や架替えに係る費用の縮減を図るため、平成19年度に『長寿命化修繕計画策定事業費補助制度』が創設され、それぞれの道路管理者が長寿命化修繕計画をつくることになりました。

 長寿命化修繕計画を実務的な視点から見ると、全体事業費の推移の把握と、個別橋梁の補修補強方針の整理がポイントとなります。

長寿命化修繕計画に定める事項
  1. 長寿命化修繕計画の目的
  2. 長寿命化修繕計画の対象橋梁 (全管理橋梁数と計画の対象橋梁数等)
  3. 健全度の把握及び日常的な維持管理に関する基本的な方針
  4. 対象橋梁の長寿命化及び修繕・架替えに係る費用の縮減に関する基本的な方針
  5. 対象橋梁ごとの概ねの次回点検時期及び修繕内容・時期又は架替時期
  6. 長寿命化修繕計画による効果

出典〕長寿命化修繕計画策定事業費補助制度要綱(平成19年4月2日、国道国防第215号、国道地環第43号、国土交通省道路局長)、長寿命化修繕計画策定事業費補助制度の運用について(平成19年5月22日、国道国防第40号、国道地環第6号、国土交通省道路局国道・防災課長、地方道・環境課長)

全体事業費の推移の把握

 長寿命化修繕計画の具体の計画策定は自治体に委ねられているため、一例として青森県の計画策定フローを示します。

 技術的には劣化予測をどのように行なうかが一つの課題となります。 過去に国土交通省が示した「橋梁の修繕費の推計方法案」では、支承、伸縮装置、高欄、地覆、橋面防水は「修繕・交換サイクルに基づいて修繕する部材」とし、主桁、床板、下部工を「劣化予測をする部材」として予防保全の対象としていました 1)

 概算工事費は大阪府などいくつかの自治体が公表しています。

 維持管理シナリオとして、損傷が大きくなってから修繕や架け替えを行なうシナリオを採用した場合には、当面の事業費は現在と同じでも、今後、膨大な修繕や更新の事業費がかかるようになります。 一方、損傷が小さい段階から予防保全に取り組むシナリオを採用した場合、全体の事業費は抑えられるものの、当面の事業費は急増します。 その結果、財源の確保ができるレベルでのシナリオが計画化されます。

個別橋梁の修繕方針の整理

 財源の制約があるなかで予防保全を進めるには、予防保全のシナリオとして、どの橋梁をどのレベルで予防保全を行なうのかを決めて、その事業費を積み上げと計画事業費の整合を図る必要があります。

 予防保全の対象とする橋梁の選定は、重要な道路ネットワーク上にある橋梁や、事後対応的な修繕に膨大な事業費を要する長大橋であるかなどの観点から行なわれています。 既に損傷が著しい橋梁を予防保全の対象から外したり、橋長が短い鋼橋はボックスカルバートに更新することを前提に予防保全の対象から外すという判断をしている道路管理者もあります。

 個別の橋梁で予防保全を行なうレベルの設定は、損傷がどの程度になったら予防保全に着手し、その際にどこまで補修や補強を行なうかという考え方の整理になります。

 実際に特定の橋梁の補修や補強を行なう際には、このシナリオを理解して、事後対応的な補修にとどめるのか、十全な予防保全まで行なうのかを決めることが必要となります。

 橋長15m以上の橋梁の長寿命化計画策定状況は、平成25年4月現在、都道府県政令市で98%、市区町村で79%になっています 2)

橋梁の補修・補強

 損傷した橋梁を補修や補強する際には、その損傷原因を把握し、適切な補修工法を選定する必要があります。 当サイトでは、いくつかのページでそれぞれについて紹介をしています。

鋼橋、鋼部材の補修補強

 鋼橋や鋼部材の損傷原因を整理したうえで、どのような補修補強工法が選定されるのか、その補修補強工法がどのようなものなのかを、工法毎に工事事例なども含めて紹介しています。

RC橋、RC部材の損傷原因

 鉄筋コンクリート橋やRC部材の損傷原因については、塩害やアルカリ骨材反応、中性化、凍害、RC床版の疲労などの代表的な劣化パターンを取り上げて、劣化の仕組みや調査の方法、対応する工法例を紹介しています。

RC橋、RC部材の補修補強工法選定

 RC橋やRC部材の補修補強工法の選定のために、いくつかの道路管理者の設計基準などを紹介するとともに、どのような工法が選定されるのかを紹介しています。

RC橋、RC部材の補修補強事例

 RC橋やRC部材の補修や補強に用いられる工法がどのようなものかを、工法毎に工事事例を含めて紹介しています。