穴ぼこや段差に関する事故と対応実務

 舗装の陥没やくぼみ、路面の凸凹、舗装部と未舗装部や側溝などとの段差、マンホールなどの突出などにより、車が損傷したり、二輪車や自転車が転倒した事故などについて説明しています。
 あわせて、車道の穴ぼこを事例に、瑕疵の判断や過失相殺、初動対応についても説明しています。

穴ぼこや段差に関する事故の概況

 穴ぼこや段差に関する事故とは、舗装の陥没や剥離、舗装部と未舗装部や側溝などとの段差、マンホールなどの突出などにより、自動車が損傷したり、二輪車や自転車が転倒した事故などです。 歩道の段差などによって歩行者が転倒する事故も含まれます。

 道路管理瑕疵が問われる事故としては最も多いパターンなので、日頃の道路管理での注意が必要です。

 後段で、穴ぼこや段差に関する事故を事例に対応実務についても説明しています。 管理瑕疵が疑われる事故が起きたときは、管理瑕疵がないことを説明したり、類似事例を参考に補償の範囲や過失相殺の割合を決めて示談で解決することが一般的です。 被害者と道路管理者で、瑕疵の有無や過失相殺の割合についての感覚が大きく違う場合がよくあります。 穴ぼこがあったとして必ずしも管理瑕疵にならないことや、被害者に前方を注視して運転する義務があるためほとんどの案件で過失相殺がされることを踏まえ、正確な状況を把握して対応することが必要です。

 管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2)

○ 舗装の劣化や剥離により生じた穴ぼこによる事故

 穴ぼこに関連した事故の裁判例は45件が掲載されていて、そのうち3割の事故では、通常程度の凸凹だったり、通常の技術をもってすれば通行が容易であったり、事故と穴ぼこに因果関係がないという理由で管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵があるとされた案件では、ほとんどが大幅な過失相殺がされています。

 雪解けの時期に舗装に生じるポットホールという穴ぼこによる事故や、穴ぼこが多い悪路での事故が多くみられます。 応急補修が壊れたところでの事故や、わだち掘れが大きくなって車両の下部を損傷した事故もみられます。

○ 車道に生じた段差による事故

舗装の損傷状況の画像

マンホール周りの舗装劣化

写真出典〕当サイト撮影(R1.10)

 マンホールなどの突出による段差や、横断構造物部の隆起、舗装と側溝や集水桝などとの段差、舗装部と非舗装部の間に生じた段差での事故の裁判例は16件が掲載され、そのうち6割の事故では、通常程度の段差であるとか、事故と段差に因果関係がないという理由で管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵があるとされた案件では、全ての案件で過失相殺がされていて、その割合は4〜7割になっています。 なお、一部の事故は、路肩部分で起こった事故側溝等の蓋不全に関する事故に整理されています。

○ 道路工事関連の事故

 工事中の段差のすり付け部や仮復旧部、仮道部での事故や、工事後の陥没による事故の裁判例が34件掲載されています。 そのうち1/3の事故では、自動車の通行に支障がないとか、通常程度の凸凹であるという理由で管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵があるとされた案件では4〜6割程度の過失相殺をされている案件が多く、例えば、工事中の仮復旧部や仮道部で標識や照明、保安措置などの注意喚起措置が不十分だったものなどがあります。

○ 融雪穴による事故

 圧雪が剥離して生じた段差での事故の裁判例が2件ありますが、2件とも回避可能性の観点から無責となっています。

○ 歩行者関連の事故

 歩行者が歩道の段差や穴ぼこで転んで怪我をした事故などの裁判例は14件が掲載され、そのうち8割の事故で、注意していれば容易に気づくとか、通常程度のくぼみであるという理由で管理瑕疵がないとされています。

穴ぼこによる事故の管理瑕疵の有無

 道路を管理する立場では、管理瑕疵を問われないためには、何cm以上の穴ぼこや段差を無くさなければならないのかという疑問がでてきます。 しかし、管理瑕疵の有無の判断は『その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断する神戸市道防護柵不全児童転落事件』ものとされていて、その答えは見当たりません。

 例えば、山間部の交通量の少ない中央部のみが簡易舗装された府道で、道路の端の舗装が剥がれてできた深さ10cmの穴ぼこで自転車が転倒した事故では、道路の整備の程度は「当該道路の位置、環境、交通状況等に応じ一般の通行に支障を及ぼさない程度で足りる」として「通行者の方で通常の注意をすれば容易に危険の発生を回避しうる程度の軽微な欠陥は道路の管理の瑕疵に該当しない」とされました京都府道穴ぼこ自転車転倒事件

 その他にも「くぼみの形状から見れば、交通に支障を来す程のものとは考えられない福岡県道原付転倒事件」「交通事故の原因に直結するほどに危険な状態が生じていたとまではいえない市道原付転倒事件」などの理由で管理瑕疵がないとした判例が数多くある一方で、管理瑕疵を認めている判例も数多くあります。

京都府道穴ぼこ自転車転倒事件 (大阪高判昭和55年7月25日)

○ 事故の概要
 山間部の交通量の少ない中央部のみが簡易舗装された府道で、サイクリングをしていた人が反対側から来たバスとすれ違うために府道の端に寄ったところ、簡易舗装が剥離して生じた穴ぼこ(長さ0.8m、幅0.3m、深さ0.1m)でバランスを失ってバスと接触して転倒し、バスに轢かれて死亡した。

○ 判決の要旨
 道路の管理の瑕疵とは、道路がその用途に応じ通常備えるべき安全性を欠いている状態をいうのであるが、常に道路を完全無欠の状態にしておかなければ管理に瑕疵があるというわけのものではなく、その整備すべき程度は、当該道路の位置、環境、交通状況等に応じ一般の通行に支障を及ぼさない程度で足りるのであって、通行者の方で通常の注意をすれば容易に危険の発生を回避しうる程度の軽微な欠陥は道路の管理の瑕疵に該当しない。
 中央部が簡易舗装をされていたにすぎない道路では、通行者が道路の端のくぼみに注意して通行する義務がある 1)

 1) 京都府道穴ぼこ自転車転倒事件裁判所裁判例情報

福岡県道原付転倒事件 (最高裁判昭和49年11月7日)

○ 事故の概要
 午後10時頃、工事のためにくぼみ(幅85cmで中央部に向かってなだらかにくぼみ、最深部で3cm)が生じていた道路で、原付自転車が転倒した。

○ 判決の要旨
 くぼみの形状から見れば交通に支障を来す程のものとは考えられないから、このくぼみを道路の瑕疵とは言い得ない 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.24

市道原付転倒事件 (徳島地判平成19年7月31日)
説明‥の写真

3cm程度のくぼみ

○ 事故の概要
 非市街地の横断する用水路が埋設された前後に3cm程度のくぼみが生じていた道路で、原付自転車が転倒した。

○ 判決の要旨
 道路に生じていた危険状態は比較的軽微であり、これによって、二輪車の交通事故の原因に直結するほどに危険な状態が生じていたとまではいえず、本件道路の管理に瑕疵があったとはいえない 1)

 1) 訴訟事例紹介 原動機付自転車が道路に生じていた隆起部分によって転倒した事故について、道路管理瑕疵が争われた事例道路行政セミナー 2009.7

相当因果関係

 道路に管理瑕疵があったとしても、事故との間に相当因果関係がなければ、補償の対象にはなりません。 例えば、穴ぼこに落輪したために車のコントロールを失ったものの、その後の衝突事故の原因は無謀運転と運転技術の未熟によるものとして、管理瑕疵と事故との間の相当因果関係を認めなかった判決があります北海道国道229号路肩穴ぼこ事件

 また、補償の対象となる損害額は相当因果関係がある費用に限られます市道轍掘れによる車両底部損傷事件

北海道国道229号路肩穴ぼこ事件 (最高裁判昭和55年6月16日、札幌高判昭和54年4月26日)

○ 事故の概要
 上下2車線の道路で、貨物自動車を追い越すため70km/hで対向車線上にでた軽四輪が、車道と路肩部分にあった幅1.3m、長さ1.4m、深さ10〜15cmの水の溜まった窪地に右側の車輪を落とし、制御を失って道路脇の電柱に激突した。

○ 判決の要旨
 本件窪地の存在する路肩部分は、道路としての安全性を欠くに至っていたのに補修工事を講じなかったのであるから、道路の管理に瑕疵があった。
 運転者は窪地に落輪の後、ハンドル操作の自由を失い、かつ減速措置をとることも忘れ、そのまま67.8m右左に逸走させ、車の左前部を道路外の電柱に激突させた。 本件事故は、無謀な運転と運転技術の未熟によるものであって、道路の管理の瑕疵と本件事故との間には法律上相当とする因果関係はない 1) 2)

 1) 札幌高判昭和54年4月26日道路局 AHSに係る責任関係等に関する研究会
 2) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.210

市道轍掘れによる車両底部損傷事件 (福岡地判平成29年11月9日)

○ 事故の概要
 地上高約8.5pの乗用車で都市部の3車線の道路を走行中に、信号で停止しようと徐行した際に高低差(最大値)約70〜80oのわだち掘れに車両底部が接触した。

○ 判決の要旨
 道路運送車両の保安基準で自動車の最低地上高は9p(特定の場合は5cm)とされており、本件わだち掘れの高低差が最大約8pであったことからすれば、本件わだち掘れは道路運送車両の保安基準を満たした自動車の底部との接触は免れない程度のもので、公の営造物として通常有すべき安全性を欠いていた。

 自動車の運転者が、少なくとも都市部にある整備された道路を走行するに当たり、その路面を注視してわだち掘れの有無について注意を払いながら運転しなければならない義務を負っているとも解し難いので、過失相殺はしない 1)

表−原告の請求額と裁判所が認めた損害額
項目 原告の主張 判決 理由
車両修理費用 385,074円 50,760円 本件事故と相当因果関係のある車両修理費用は、
擦過痕が生じたアンダーカバーの取替等に限られる。
代車使用料 6,480,000円 280,000円 高級外車を代車とする必要性が明らかでなく、
修理に要した期間は一般的な期間とみるのが相当である。
弁護士費用 686,507円 33,000円 本件事案の内容、審理の経過及び原告の損害額等に照らす。
損害額合計 7,551,581円 363,760円

 1) 訴訟事例紹介 道路の轍掘れによってアスファルトの路面が隆起し、車両の地上高が一般の乗用車と比較して低い外国製の乗用車が損傷した事故について、道路の管理の瑕疵等が争われた事例道路行政セミナー 2019.9

過失相殺

 道路に管理瑕疵があったとしても、穴ぼこや段差による事故の場合には、車両の運転者にも注意義務があるため道路交通法 第70条、道路管理者と被害者の双方に落ち度があるのが一般的です。 例えば、他の通行車が危険を回避して通行しているなかで1件だけ事故が起きたというような場合は、被害者が通常の注意か、より多くの注意を払っていれば事故は回避されていたと考えられます。

 双方に落ち度があるときは「過失相殺」によって、過失の割合に応じて補償金を減らします。 過失相殺の割合は裁判で個別に判断されるものなので一概に言えませんが、舗装の劣化や舗装剥離による事故では、被害者が注意義務を果たしていなかったとして5割前後の過失相殺が行われている判例が多くあります兵庫県道穴ぼこ自転車転倒事件宮城国道45号原付転倒事故損害賠償請求事件

 一般的な注意義務があるのに加えて、警戒標識が設置されていたり、普段から通っていて悪路と知っていたり、スピードを出しすぎていたというような場合は、より大きな過失相殺が行われ、7〜9割の過失相殺をした判例もあります三原市道原動機付自転車衝突事故川口市道穴ぼこ単車転倒事件静岡県道路面不全事件

 過失相殺の割合は、示談の場合には道路管理者が類似の事例を参考に提案していきますが、それで折り合わない場合には裁判で決めることになります。

兵庫県道穴ぼこ自転車転倒事件 (神戸地判平成24年3月13日)

○ 事故の概要
 ロードレース用の自転車を運転していた人が、県道の穴ぼこ(95p×41p×深さ6.4p)に自転車の前輪を落としハンドルを取られて転倒して受傷した。

○ 判決の要旨
 本件道路は山岳道路であるが休日には1000台以上の自動車、20台以上の自転車が走行する、路面全体が舗装された道路であり、穴ぼこが存在することは考えにくいことなどから、本件道路は通常有すべき安全性を欠いている。
 被害者は、前方を注視することにより穴ぼこの存在に気づくことが可能で、穴ぼこを避けるか、転倒しないように低速で走行することができたため、過失割合は50%とする 1)

 1) 訴訟事例紹介 ロードレース用自転車で山間部を走行中、道路上にある穴ぼこによって転倒した事故について、道路の管理瑕疵が争われた事例道路行政セミナー 2013.5

宮城国道45号原付転倒事件 (仙台高判平成14年11月14日)

○ 事故の概要
 バイクを運転していた人が、工事用暫定迂回路のくぼみにバイクの車輪を乗り入れ、車体のバランスを失って対向車に衝突して死亡した。

○ 判決の要旨
 本件くぼみの存在は、迂回路が通常有すべき安全性を欠いており、事故が発生する危険性が客観的に存在し、かつ、そのことは通常容易に予測し得るものであったので、損害賠償責任を負う。
 本件迂回路手前に「迂回路あり」「工事中」「徐行」の標識が設置されていたにもかかわらず法定速度30km/hを超える約40km/hで走行し、前方注視を怠った点において過失があったものといわざるを得ず、その割合は50パーセントと認める 1) 2)

 1) 訴訟事例紹介 宮城国道45号原付転倒事故損害賠償請求事件道路行政セミナー 2003.4
 2) 仙台高判平成14年11月14日裁判所裁判例情報

三原市道原動機付自転車衝突事故 (広島高判平成18年2月2日)

○ 事故の概要
 通行量が比較的多い自転車原付専用通行帯がある片側1車線の市道で、芸予地震によりマンホールが隆起した。 原付自転車で走行中、隆起したマンホールでバランスを失って22m先の歩道上の街路樹に衝突し、死亡した。

○ 判決の要旨
 道路に凸凹があると通行するものにとって危険であるから、ある程度平坦でなければならない。 原動機付自転車が50〜60km/hの速度で走行することは予想の範囲内であるし、この程度の速度超過で交通の危険が発生するのでは、道路としての平坦さを欠く。
 運転者は定員外乗車をさせ、ヘルメットを装着せず、50〜60km/hと速度超過をしていたので、運転者の過失を7割と認める 1)

 1) 訴訟事例紹介 2人乗りで速度超過をしていた原動機付自転車の衝突事故において道路の管理の瑕疵が争われた事例 −三原市道原動機付自転車衝突事故損害賠償請求事件−道路行政セミナー 2006.12

川口市道穴ぼこ単車転倒事件 (浦和地越谷支判昭和52年8月15日)

○ 事故の概要
 原付自転車で走行中、穴ぼこ(横2.5m、幅2m、深さ5cm)に落輪して転倒し、死亡した。

○ 判決の要旨
 道路管理者は、破損個所を修繕するか、付近に標識を掲げて通行車両の徐行又は避譲を促す等の措置を講じるべきであった。
 被害者には、前方不注視、かなりの速度で進行したことの過失があり、損害額の7割程度を減額控除する 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.31

静岡県道路面不全事件 (静岡地浜松支判昭和53年3月15日)

○ 事故の概要
 原付自転車で走行中、舗装が剥離した穴ぼこ(直径30cm、深さ3〜5cm)に落輪して転倒し、死亡した。

○ 判決の要旨
 穴ぼこがいくつも続いてあってその間に波状型路面がある状態は、通常有すべき安全性を欠如させていた。
 被害者には、スピードを出しすぎた過失があり、過失割合は9割と認める 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.32

融雪穴による事故

 圧雪等が剥離して生じた穴による事故では、「回避可能性」の観点から管理瑕疵がないという判決がでています市道融雪による陥没穴の車両損傷事件北海道国道275号道路陥没衝突事件

市道融雪による陥没穴の車両損傷事件 (釧路地判平成22年8月10日)

○ 事故の概要
 除雪計画で最小限の圧雪厚に止めることにしていた生活道路の中央部に、融雪による陥没穴(幅2.9m、最短位の長さ1.6m、深さ26〜27cm、内部に溜まっていた水の深さ13cm)が事故当日に発生し、普通自動車が前輪を落として車両が損傷した。

○ 判決の要旨
 陥没穴を長期間にわたって放置していたものではない。
 陥没穴にかかっていない部分が陥没穴の南側に2.8mの幅で存在することや、前照灯で前方40mの障害物を確認できることから、陥没穴を回避して走行させることは可能であった。
 本件道路に本件陥没穴が存在し、他方、通行止め等の通行規制は実施されておらず、通行者に注意を促す表示等もなされていなかったからといって、本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたとまでいうことはできず、本件道路に設置又は管理の瑕疵があったということはできない 1)

 1) 訴訟事例紹介 夜間に普通自動車が走行中、融雪による陥没穴に前輪が滑落し、車両が損傷した事故について、道路の管理瑕疵が争われた事例道路行政セミナー 2012.2

北海道国道275号道路陥没衝突事件 (札幌高判昭和54年8月29日)

○ 事故の概要
 貨物自動車で走行中、圧雪が剥離した穴(長さ4.5m、幅2.4m、深さ約20cm)に落ちて意識を失い対向車に衝突して負傷した。

○ 判決の要旨
 圧雪部の剥離から事故発生までの時間が極めてわずかしかなかったことに照らせば、管理に瑕疵があったとは言えない 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.36

歩行者の段差による事故

 歩行者が歩道の段差や穴ぼこで転んで怪我をした事故などでは、道路の状況によって「通常程度の凸凹、くぼみ、段差である山口国道191号歩道穴ぼこ歩行者転倒事件」「通常の注意を払っていれば危険はない東京都道歩道窪み歩行者転倒事件市道側溝蓋段差転倒事件」などの理由で管理瑕疵がないとした判例が裁判例の8割を占めています。 その一方で、現地の状況によっては、管理瑕疵を認めている判例もあります京都市歩道段差転倒事故損害賠償請求事件

山口国道191号歩道穴ぼこ歩行者転倒事件 (最高裁判昭和52年2月3日、広島高判昭和47年12月11日)

○ 事故の概要
 午後7時30分頃、歩道を通行中に都市ガス用「水取りボックス」のくぼみ(20cm×20cm×深さ2.2〜2.4cm)につまずき、よろめいて歩道右側の無蓋側溝内に左足を踏み入れて負傷した。

○ 判決の要旨
 本件程度のくぼみ等は珍しいものではなく、本件のような事故の発生は通常予測し得ないところであるから、道路の管理瑕疵にあたらない 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.27

東京都道歩道窪み歩行者転倒事件 (東京地判平成8年3月12日)

○ 事故の概要
 午後9時半頃、歩道を通行中にアスファルトの窪み(最大直径1.1m、最小0.45mの楕円形で最深部7cm)に足を取られて転倒し、負傷した。

○ 判決の要旨
 本件窪みは、深さが堆積した土砂の存在により5cmより浅く楕円形であったことから、ごく浅い極めて緩やかな斜面をもつ比較的広い範囲にわたる窪みであったと考えられ、一般の歩行者が通常の注意を払って歩いている限り危険は考えがたいため、管理瑕疵を認めることはできない 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2003年、P.61

市道側溝蓋段差転倒事件 (岐阜地判平成19年11月12日)

○ 事故の概要
 市道の側溝をまたいで停車していた自動車を自己の駐車場内に入れるため、後方から運転席ドアへ近づいた際、2.5cm〜3cmの段差につまずいて転倒し傷害を負った。

○ 判決の要旨
 この程度の高低差は通常の道路においても頻繁に見受けられるもので、通常一般の歩行者が相応の注意を払っていてもなお本件段差につまずいて転倒するような危険があったとまでは考えられないので、設置又は管理の瑕疵があったということはできない 1)

 1) 側溝蓋の段差につまづき転倒、負傷した事故について道路管理瑕疵が争われた事例道路行政セミナー 2008.12

京都市歩道段差転倒事件 (平成14年7月23日大阪高判)
説明‥の写真

○ 事故の概要
 信用金庫本店前の歩道を横断する暗渠化した排水路の鉄蓋と歩道面との間に生じていた4cmの段差に、歩行者が躓いて負傷した。

○ 判決の要旨
 交通量が少なくない歩道の中央部の段差は4cm程度であっても歩行者が段差に躓き怪我をする可能性は相当程度あり、道路として通常有すべき安全性を欠いていた。
 歩行者に前方不注視の過失があるため5割の過失相殺をする 1)

 1) 訴訟事例紹介 京都市歩道段差転倒事故損害賠償請求事件道路行政セミナー 2003.2

穴ぼこや段差に関する事故への対応実務

 事故の未然防止対策

[パトロール中の道路パトロールカーの画像]

道路パトロール

写真出典〕国土交通省松山河川国道事務所HP

道路緊急ダイヤルの説明図

道路緊急ダイヤル

資料出典〕国土交通省HP

 穴ぼこや段差による事故を未然に防ぐための一般的な対策は、道路パトロールと住民からの情報提供の活用です。

 道路パトロールの通常巡回では、道路パトロールカーの中から道路や付属物の状況を目視で確認するもので、舗装のポットホールや剥離、陥没、ひび割れ、わだち掘れや、道路工事や占用工事の状況も点検の対象となっています。 歩道は道路パトロールカーの中から点検することが難しいため、徒歩巡回を行っている道路管理者もあります。

 住民からの情報提供については、国土交通省が道路緊急ダイヤル(#9910)を開設しているほか、自治体によっては市報やホームページなどで情報提供の呼びかけを行ったり、地域の代表者などから情報が得られるようにしています。

 老朽化した下水道管が多い自治体などでは、路面下の空洞を調査して道路の陥没を未然に防ぐ取り組みも行われています。

 陥没や段差の発生時の安全措置

[道路パトロールで置かれたカラーコーンの画像]

危険を知らせるコーンの設置

写真出典〕大分県中津土木事務所HP

 道路に穴ぼこや段差が生じて「通常有すべき安全性」を欠いた場合、直ちに修繕ができれば最善ですが、常温合材を用いた応急復旧などが行われています。

 直ちに補修することができない場合は、「段差注意」「徐行」等の標識や赤色灯などを置いて注意を促したり、セーフティコーンなどで変状箇所を囲う措置などが必要です。 通報内容を踏まえて、必要な応急資機材を持って現場に向かうことが望まれます。

 事故の発生時の対応

 管理瑕疵が疑われる事故は、多くの場合、事故を起こした人からの連絡で分かります。 事故の連絡を受けて、事故者からのヒアリングや事故現場の確認、安全措置を行います。 これらの業務は連絡を受けて直ちに対応するため、あらかじめ、何をすべきかを理解をしておくことが必要です。

 所属の組織に管理瑕疵対応の事務要領などがある場合はそれにより対応をし、ない場合は下記を参考にしてください。

 事故者からのヒアリング

 事故者からのヒアリングは、可能な限り現地で立ち会って行い記録に残します。 管理瑕疵の有無の判断や過失の割合の算定が必要なことや、裁判になったときに、瑕疵がないことや過失があることの立証は道路管理者側が行わなければならないことを踏まえて、下記の事項をヒアリングします。

  • 事故の発生時刻
  • 事故の発生場所
  • 事故者の氏名、住所、電話、職業
  • 発生した損害の状況
    (人的被害の場合は病名や病院名、物的損害の場合は車両名や損傷の状況)
  • 事故に至るまでの状況
    (事故現場に至る走行ルートなど)
  • 事故の状況
    (事故者からのヒアリングと、車体の傷の状況の写真)
    (他の車が穴ぼこや段差を避けていて、その車だけが事故を起こした場合は、不案内な道だったとか、事故発生時に暗かったとか、ヘッドライトを点けていなかったとか、水溜りがあったとか、スピードを出していたとか、小さな穴ぼこだから避けなくても良いと思ったなど、穴ぼこなどに気づかなかった理由を含めて)
  • 同乗者や同行者、目撃者などの有無
  • 警察へ事故の届け出がなされているかの確認

 事故者のなかには、お金を請求すれば、すぐにその金額が貰えると思っている方もいます。 管理瑕疵がなければ支払いができないこと、過失相殺などがあること、それらを決めるために相当の時間を要することの説明が必要です。 請求の内容や方法が違法だったり不当だったりするときには、警察や暴力追放センターなどとの連携が必要となる場合もあります。

 安全措置と現地での確認事項

 ヒアリングと同時に、取り急ぎ、誘導棒、セーフティコーン、道路パトロールカーなどを用いて二次被害の防止に努めた上で、応急措置を行います。

 現場の写真は、次のようなものが必要で、応急措置をするときは、応急措置前に写真を撮ります。

  • 事故の原因となった穴ぼこ (大きさや深さが解るようにスケールをあてて写真に撮る)
  • 事故者の説明や車の損傷を補う現場周辺の状況写真
  • 事故に影響を及ぼしたであろう現場周辺の環境があるときは、その状況
  • 事故現場までのルートに「段差注意」などの注意喚起の標識があったり、もともと凸凹の道路あれば、その状況
 帰庁後の確認事項

 帰庁後に確認する事項としては次のようなものがあります。

  • 直近のパトロールの時期と、その時の状況
  • 穴ぼこなどに係る補修履歴

 これらを踏まえて、管理瑕疵の有無の判断や、過失割合などが決められていきます。 事故証明書や診断書の提出には費用がかかるため、補償をする方針が決まってから求めることも多いようです。

 損害賠償は、多くの自治体で合議などで支払いの可否や額を決める仕組みがあるほか、議会の議決を経るか、議会に専決処分の説明する必要があります地方自治法 第96条1項13号地方自治法 第180条。 そのため、事故者に追加のヒアリングなどをして、どのような瑕疵があったのかを議会の質疑に耐えられるレベルで整理する必要があります。

 示談交渉

 管理瑕疵があると判断され過失割合が決まった後に、事故者と示談交渉を行います。

 自治体が道路賠償責任保険などに加入している場合は、示談交渉の前に保険会社への連絡が必要で、補償する損害額の範囲や過失割合などについてのサポートが受けられます。

 法律上の助言が必要なときに弁護士に相談したり、自動車の損害が大きく車両の時価を損害額とする際に日本自動車査定協会に委託して価格評価を得たり、著しく高額な修理見積もりに対して損害保険協会に登録している技術アジャスターに委託して車両鑑定を行った事例もあるようです。