排水施設や側溝蓋等に関する事故

 道路冠水による車両の水没事故や、路面排水や側溝の排水ができなかったために沿道に被害を与えた事故、無蓋側溝や用悪水路に落ちた事故、有蓋側溝と無蓋側溝の境目での事故、蓋の隙間や破損による事故などについて紹介しています。

排水施設の不備による事故

排水施設の不備による事故の概要

 排水施設の不備による事故とは、道路冠水による車両の水没事故や、路面排水や側溝排水ができなかったために沿道に被害を与えた事故です。

 管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2) 3)

○ 道路冠水による車両水没事故

 道路冠水による車両の水没事故は8件が掲載されていて、そのうち2件では局地的な豪雨のなかの事故であるなどの理由で管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵を問われた案件では概ね7〜8割の過失相殺が行われています。

○ 路面排水や側溝排水が不適切で沿道に被害を与えた事故

 路面排水や側溝排水が不適切で沿道に被害を与えた事故は21件が掲載されていて、そのうち3/4の案件では、因果関係がないなどの理由で管理瑕疵がないとされています。

道路冠水による車両水没事故

 道路冠水による事故では、道路が冠水する「予見可能性」があったか、通行止めをするなどの「回避可能性」があったかで管理瑕疵の有無が判断をされています。 被害者については、注意を欠いて冠水箇所に入ったことなどで大幅な過失相殺が認定される場合が多いようです千葉市道自動車冠水事件加須市道自動車冠水事件

千葉市道自動車冠水事件 (千葉地判平成25年4月17日)

○ 事故の概要
 平成22年(2010)。 台風による大雨で冠水した市道で、走行中の車両が水没し故障した。

○ 判決の要旨
 乗用車の運転者が十分な注意を尽くせば事故を回避できた。
 台風の影響で市内に多くの被害が生じており、他の被害案件に優先して本件道路の事故防止措置を執るべき義務があったとはいい難い 1) 2)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.190
 2) 訴訟事例紹介 台風による大雨で、道路が冠水し、車両が水没した事故について、道路の管理瑕疵が争われた事例道路行政セミナー 2014.9

加須市道自動車冠水事件 (最高裁判平成13年12月20日)

○ 事故の概要
 平成9年(1997)。 乗用車が東北自動車道の下を横断するカルバートボックスに通じる東北自動車道の側道に進入したところ、集中豪雨により最大2mの冠水が発生していて乗用車が水没し損傷した。

○ 判決の要旨
 側道が冠水していたという一事から、直ちに本件側道に瑕疵があったと言うのは相当ではない。
 側道に設置されていた標識は注意を呼びかけるもので進入を禁ずるものではなかった。 道路公団から水位異常を知らせるファックスを受信していたことなどから進入防止措置を講じることができたのに、なされていなかった側道には瑕疵があった。
 運転者は注意を怠って本件側道に進入し、進入後も停止や後退が不可能になるほどのスピードで走行し水没したのであるから、7割の過失相殺を行う 1) 2)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.183
 2) 加須市道自動車冠水事件道路行政セミナー 2002.5

参考〕アンダーパス冠水
アンダーパス冠水の写真

アンダーパス冠水

写真出典〕総務省HP

 台風や集中豪雨で道路のアンダーパスが冠水し、運転者が死亡する事故が、この20年間で5件程度起こっています。 アンダーパス冠水については、国土交通省が「道路冠水注意箇所マップ 1) 」を公表して注意喚起を行っているほか、道路管理者が冠水箇所に注意喚起の看板を設けたり、冠水時に迅速に通行止めにする取り組みをすすめています 2) 3)

 1) 道路防災情報webマップ国土交通省 災害情報
 2) 道路の冠水対策に関する調査(平成30年4月、近畿管区行政評価局 地域計画調査
 3) 栃木県における道路アンダーパスの冠水対策について道路行政セミナー 2014.12

路面排水や側溝排水が不適切で沿道に被害を与えた事故

 路面排水や側溝排水が不適切で沿道に被害を与えた事故については、様々な因果関係で道路管理者が訴えられていて、裁判でその因果関係の有無が判断されています。

 道路の管理瑕疵を問われた裁判例は5件あり、道路の嵩上げをしたために民有地が浸水するようになったもの(岡山地判昭和63年2月26日他2件)や、排水の流末を民有地に設けてしまったもの(大分地判昭和40年4月20日)、民有地の排水口を塞いでしまったもの(徳島地判昭和42年07月28日)でした。

新潟国道49号道路排水溝溢水事件 (新潟地判平成8年10月24日)

○ 事故の概要
 平成3年(1991)。 一時的な大雨により側道脇の民有地が水没し貸倉庫が浸水被害を受けた。

○ 判決の要旨
 側溝は当日の集中的な豪雨による排水を十分に処理しうる施設として設置されていた。 1ヶ月前の道路巡回の際に溢水の原因となるようなゴミの堆積は発見されておらず、1ヶ月の間にゴミが堆積し排水機能に障害が生じたことは予見しがたいものであり、管理の瑕疵は認められない 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.181

側溝等の蓋不全に関する事故

側溝等の蓋不全に関する事故の概要

 無蓋側溝や用悪水路に落ちた事故のほか、有蓋側溝と無蓋側溝の境目での事故、蓋の隙間や破損による事故、マンホールの蓋の段差による事故などです。

 管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2) 3)

○ 無蓋側溝や無蓋の用悪水路への転落事故

 無蓋の側溝や用水路、悪水路(排水路)に歩行者や自転車などが落ちた事故や、自動車の脱輪事故は22件が掲載されています。 そのうち、大人が落ちた事故が10件で、その半数は通常の利用によれば転落しない等の理由で管理瑕疵を問われていません。 子どもが落ちた事故が7件あり、概ねが側溝などで遊んでいたときの事故で、その半数は通常予測できない行動によるものとして管理瑕疵を問われていません。 なお、転落防止柵などが無いために用水路等に転落した事故は、「ガードレールの不全に関する事故」にまとめています。

○ 有蓋側溝が無蓋になる地点などでの転落事故

無害となる箇所の転落防止施設の写真

無蓋となる箇所の転落防止施設

 有蓋側溝が無蓋側溝になる地点で歩行者や自転車などが転落した事故の裁判例は12件が掲載されていて、そのうち2件では転落防止施設は十分であったなどの理由で管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵が問われた10件の中には、照明や転落防止施設がなく、有蓋側溝が無蓋に変わることが解りにくかった地点での事故などがあります。

○ 側溝蓋の破損や隙間による事故

側溝蓋の外れの写真

側溝蓋の外れ

 次のような箇所で歩行者や自転車が転倒したり、車両が損傷するなどした事故は26件が掲載されています。

  • 蓋が外れていた
  • 蓋が壊れていた
  • 車両が乗ったときに蓋が跳ね上がった
  • 蓋に隙間があった
  • 蓋に段差があった

 これらの事故では、直前に蓋が外されていたとして回避可能性から管理瑕疵が問われなかった事例などが2割ありますが、8割の事故で管理瑕疵を問われています。

無蓋側溝や無蓋の用悪水路への転落事故

 無蓋の側溝や用悪水路は相当数設置されているもので、無蓋の側溝に落ちたというだけで管理瑕疵を問われるものではありません橋本市道歩行者側溝転落事件

 無蓋の側溝などが設置されていた状況によっては、例えば度々溢水して路面との識別が困難な箇所(奈良地判昭和57年3月26日)や、識別が困難な状況で無蓋側溝が始まる箇所京都市道無蓋側溝歩行者転落事件などの事故で、過失相殺のもと管理瑕疵を認めた裁判例があります。

 対策を講じる場合、無蓋として設置された側溝は、一般に蓋掛けをしたときに上に車が乗れる強度はありません。 注意喚起の標識を設置するとか、前面にポールを設置するとか、蓋かけに代わる対策を講じた方が良い場合もあります。

橋本市道歩行者側溝転落事件 (和歌山地判平成15年11月27日)

○ 事故の概要
 平成12年(2000)。 道路に沿った無蓋の側溝(水路)の上の、民有地の出入りのために置かれた鉄板から、ヘッドライトに幻惑された歩行者が側溝に転落し、負傷した。

○ 判決の要旨
 市内の路面排水及び農業用水路として設けられた側溝は原則として開渠になっており、被害者は現場付近に開渠の側溝があることを知っていた。
 本件現場は、歩行者が通常期待される注意をして正常に歩行している限り、道路から側溝に転落する危険性が少なく、設置又は管理に瑕疵があったということはできない 1) 2)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.332
 2) 訴訟事例紹介 転落防止の措置が講じられていない側溝のある道路の設置又は管理の瑕疵が争われた事例 −橋本市道無蓋側溝歩道歩行者転落事件−道路行政セミナー 2006.7

京都市道無蓋側溝歩行者転落事件 (京都地判平成16年9月24日)

○ 事故の概要
 平成14年(2002)。 午後8時頃、歩道が設置された道路から、歩車道の分けがなく無蓋側溝が設けられた道路に右折した歩行者が、側溝に転落して負傷した。 付近の街灯が球切れで消灯していた。

○ 判決の要旨
 道路の位置関係や周囲の状況、歩行者の歩行方法などを総合考慮すると、交差点に近い部分は蓋かけをすべきであり、その点について瑕疵があった。
 被害者も足元を十分確認しないまま道を曲がるなど相当の落ち度があり、過失相殺は8割とする 1) 2)

 1) 京都地裁平成16年9月24日裁判所裁判例情報
 2) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.294

大分県道側溝転落火傷事件 (大分地判昭和47年7月26日)

○ 事故の概要
 昭和45年(1970)。 自転車で通行中の小学生が、沿道民家から摂氏80度の温泉の熱湯が流入していた無蓋側溝に転落して火傷を負った。

○ 判決の要旨
 熱湯が流れていたことは危険であり、蓋をするか、温泉源所有者にパイプを付設することを許して、事故発生を防止すべき義務があり、これがなされなかった道路の管理には瑕疵があった 1)
(この判決を受け、県は温泉源所有者に求償した)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.276

側溝蓋の隙間や破損等に関する事故

 側溝蓋に隙間があったり、蓋が外れていたり、蓋が壊れていたための事故は、直前に蓋が外されていたというような「回避可能性」のないものを除き、過失相殺のもと管理瑕疵を認めている裁判例が多いようです大阪府道側溝蓋歩行者転倒事件。 車両が蓋に乗ったときに蓋がはねた事故でも管理瑕疵が問われています町道グレーチング跳ね上がり事件議会への専決処分の報告の記載例

 その一方で、路肩に既製品のスリット側溝を設置していたところ、一般の自転車より車輪の幅が狭いロードバイクが転倒した事故では、路肩走行やロードバイクの特殊性を踏まえた運転が求められるとして、管理瑕疵が否定されています市道既製側溝ロードバイク転倒事故

大阪府道側溝蓋歩行者転倒事件 (大阪地岸和田支判平成22年2月26日)

○ 事故の概要
 平成19年(2007)。 交差点付近の歩道を歩行中、歩道の一部である道路側溝の3枚の鉄板蓋(幅約75cm、長さ約50cm)の隙間に足がはまり、転倒し負傷した。 鉄板蓋は固定されておらず、約15cmの隙間が生じていた。

○ 判決の要旨
 鉄板蓋は交差点を曲がる車両が乗上げたときなどに、容易に移動して隙間が生じ得る状況にあり、通行人に転倒等の危険を及ぼす危険性があったので、通常有すべき安全性を欠いていた。 鉄板蓋はあらかじめ固定する等できたので、回避可能性があった。
 被害者は少なくとも2〜3m手前からは鉄板蓋の隙間を認識でき、自ら危険を回避することは十分可能であったので、過失割合を5割と認める 1) 2)

 1)道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.296
 2)訴訟事例紹介 散歩中の歩行者が側溝の鉄製蓋の間に生じていた隙間に足を落下させ負傷した事故について、道路の管理瑕疵が争われた事例道路行政セミナー 2011.2

町道グレーチング跳ね上がり事件 (札幌地岩見沢支判令和2年12月17日)

○ 事故の概要
 平成27年(2015)。 車で交差点を横断する側溝のグレーチングの上を通過したところ、側溝のコンクリートの一部が欠けていたためグレーチングが弾み、その端が車のガソリンタンクに突き刺さった。 車を後退させて降りたところ、ガソリンが漏れていたため逃げようとして、グレーチングが外れた側溝に足を取られて転倒し負傷した。

○ 判決の要旨
 グレーチングが外れて車を損傷させたことについて、道路管理者に責任がある。
 ガソリンが漏れているときに咄嗟に避難することは自然な行動で、側溝の瑕疵と負傷の間に相当因果関係がある。 冷静に対処すれば側溝を回避して避難することも可能であったので、過失割合を70%とする 1)

 1)訴訟事例紹介 グレーチング上を車両が通過した際にグレーチングによりガソリンタンクを傷つけられ、ガソリンが漏出してしまうとともに、運転者が側溝に足をとられて転倒した事故について、国家賠償法2条1項に基づき損害賠償請求等がなされた事例道路行政セミナー 2022.6

市道既製側溝ロードバイク転倒事故 (広島高岡山支判平成31年4月12日、岡山地判平成30年4月24日)
既製スリット側溝の断面形状の例

既製側溝の断面の例

図表出典〕製造会社HP

○ 事故の概要
 平成28年(2016)。 市道をロードバイク型の自転車で走行中、路肩に設けられた既製側溝上部の幅2pの直線状の排水用のスリットに車輪を挟まれて転倒し、負傷した。

○ 一審判決の要旨
 隙間を有する本件路肩部分は、通常有すべき安全性を欠いている。 原告にも過失があり過失相殺として3割を減額する 1)

○ 控訴審判決の要旨
 路肩を走行する場合、自転車の運転者には路肩の状況・状態に注意して転倒等の事故を回避することが期待されていた。 本件自転車のように、タイヤの幅が広く普及している自転車よりも狭いのであれば、この点をも考慮に入れた操作等が求められる。
 通常は、自転車の運転者が適切な運転操作を行うことにより事故を回避できるので、設置又は管理に瑕疵があったとみることはできない 2)

○ 判決の影響
 スリット形状を工夫した側溝が販売されるようになった。

 1) 自転車(ロードバイク)転倒事故について、タイヤがはまり込む隙間を有する路 肩部分の構造に問題があるとして道路の設置・管理の瑕疵が争われた事例(岡山地判平成30年4月24日、道路行政セミナー 2018.6
 2)  〃 (広島高岡山支判平成31年4月12日、 〃 2019.6)