道路の構造や橋梁、ガードレール関連の事故などについて紹介しています。
道路構造関連では、交差点形状や急カーブ、車線減少などが、橋梁関連では、耐荷力不足や幅員減少、高欄の破損や隙間があげられます。 ガードレール関連では、ガードレールが無かったり隙間があったために事故の被害が拡大したもののほか、ガードレールや転落防止柵がないために歩行者や自転車が道下に転落した事故などがあります。
道路構造等に起因する事故
交差点形状や急カーブ、車線減少などの道路の構造に起因する事故です。
道路構造令や技術基準を遵守した道路構造であることは、管理瑕疵がないと判断される重要な要素ですが、法令や技術基準を遵守しているというだけでは状況によっては不十分で「通常有する安全性」がなく管理瑕疵があると判断される場合もあり得ます。
管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2) 3) 。
標識や雪崩防止柵が道路の建築限界を侵していたことによる事故や、高さ制限の標識がない高さが低いトンネルの天井に車両が接触した事故が4件掲載されていて、管理瑕疵があるとされています。
路肩などが部分的に狭くなっている箇所から転落をした事故などは4件が掲載されています。 そのうち1件ではスピードの出し過ぎなどによる事故として管理瑕疵がないとされている一方、幅員の減少が解りやすくなっていなかった箇所などでは、大幅な過失相殺のもと管理瑕疵を問われています。
拡幅事業の途中で車線数が減ったり、先が工事現場になっている箇所での事故は9件が掲載されています。 そのうち6件は標識等の設置が十分だったなどの理由で管理瑕疵がないとされ、3件では道路の変化が解りやすくなっていなかったとして、7割〜9割の過失相殺のもと管理瑕疵を問われています。
河川や渡船場で道路が終わりになる箇所での事故は4件が掲載されていて、道路が終わることが解りやすくなっていなかった3件で管理瑕疵を問われています。
車止め〔ボラード〕
歩道の構造が原因で歩行者や自転車運転者が怪我などをした事故は15件が掲載されています。 そのうち、12件の事故では歩行者の不注意や自転車の無謀運転として管理瑕疵がないとされています(自転車坂道転倒事件)。 次のような状況で管理瑕疵を問われています。
- 急勾配の歩道切下げで3人の歩行者が転倒した(長野地伊那支判昭和53年2月20日)
- 反射テープが巻かれていない車止めに衝突した(福岡地小倉支判平成8年12月26日)
- 車止めが壊れ、残っていた金具につまづいた(新潟地判平成15年5月29日)
交通事故を起こした人などが、交差点の形状や急カーブなどを理由に道路管理者を訴えた裁判例が28件掲載されていて、21件は管理瑕疵がないとされています。 なかには「原告自身の責任による損害を、本件道路の設置又は管理の瑕疵を主張して市民の税金がその支払原資となる国家賠償に転嫁するような本訴請求は、到底認めることができない(福岡県道中央分離帯自動車衝突事件)」というような裁判例もあります。 次のような状況で管理瑕疵を問われています。
- 中央分離帯の始まる箇所に、横向きになった視線誘導標以外の注意喚起措置がなかった(千葉地判昭和47年8月2日)
- 歩車道境界の縁石がほとんど撤去され2つだけ残っていた(東京高判平成17年3月10日)
- 河川沿いの変則交差点で河川が解りにくかった(広島高岡山支判平成3年2月14日)
広島国道54号中央分離帯衝突事件 (広島高判昭和56年7月20日、広島地判昭和55年7月24日)
図表出典〕道路局 AHSに係る責任関係等に関する研究会を加工
○ 事故の概要
昭和44年(1969)。 片側2車線のみ完成したバイパスから往復4車線で完成したバイパスに進もうとした乗用車が、対向車を旧国道に誘導する三叉路で中央分離帯に衝突して運転者が死亡した。
三叉路の手前には徐行標識、安全島、デリニエーターやキャッツアイ等の視線誘導施設が設置されていた。
○ 判決の要旨
管理瑕疵の有無は、運転者として通常とるべき運転方法に従って運転した場合に、安全性に欠けるところがあったか否かによって判断すべきである。
運転者が通常とるべき運転方法に従って運転すれば、本件のごとき事故は容易に避け得たので道路に瑕疵はない 1) 。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.227
2) 広島国道54号中央分離帯衝突事件(道路局 AHSに係る責任関係等に関する研究会)
自転車坂道転倒事件 (福岡地判平成23年8月23日)
○ 事故の概要
平成21年(2009)。 午後11時前、酒に酔って自転車に乗った被害者が、高架道路から地上に降りる幅1.8m、傾斜11%の歩道を降りきったところに設置されたボラード(鉄柱)付近で転倒し死亡した。
ボラードは、自転車に乗ったまま坂道を降りると歩行者との衝突事故が懸念されるとの地元要望で設けられたもので、白色で黄色の反射テープが貼られていた。
○ 判決の要旨
歩道は自転車通行可の交通規制はされていない。 自転車が歩道を通行するときは徐行しなければならない(道路交通法 第63条の4第2項)。 ボラードは少なくとも15m手前で視認できた。 このような通行方法等を前提とした場合,ボラードや歩道が安全性を欠くとは認められない。
ボラードと衝突したか否かは判然としないが、スリップ痕からかなりのスピードで下っていて転倒したものと認められる 1) 。
○ 参考(街灯がない場合)
自転車などの軽車両が夜間に道路を通行するときは、公安委員会が定める灯火をつけなければなりません(道路交通法施行令 第18条第1項第5号)。
東京都公安委員会は、前方10mの距離にある交通上の障害物を確認することができる光度を有する前照灯としています(東京都道路交通規則 第9条)。
福岡県道中央分離帯自動車衝突事件 (福岡高判平成18年6月15日)
視線誘導標
○ 事故の概要
平成16年(2004)。 午前1時半頃、往復4車線の道路同士が交差する交差点を右折した乗用車が、中央分離帯に乗り上げ損傷した。 中央分離帯に視線誘導標がないこと等を理由に損害賠償を請求した。
○ 判決の要旨
道路管理者は、安全かつ円滑な交通を確保するため必要がある場合に視線誘導標等を設ける義務を負う。
右折をする際は徐行をしなければならないが(道路交通法 第34条2項)、これを大きく逸脱し速い速度で右折する危険性までをも想定することを義務づけられているとは言い難いので、管理瑕疵にはあたらない。
原告自身の責任による損害を、市民の税金が原資となる国家賠償に転嫁するような請求は、到底認めることができない 1) 2) 。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.349
2) 訴訟事例紹介 自動車が交差点右折の際、中央分離帯に乗り上げた事故について道路管理瑕疵が争われた事例(道路行政セミナー 2008.8)
- 訴訟事例紹介 自動二輪車が道路の起伏にハンドルをとられて転倒した事故について、管理瑕疵が争われた事例(大阪高判平成24年1月27日、道路行政セミナー 2014.3)
- 訴訟事例紹介 自転車走行中に市道上で固定されていた縁石に衝突して転倒した事故において道路の管理の瑕疵が争われた事例 −佐倉市道自転車転倒事故損害賠償請求事件−(東京高判平成17年3月10日、道路行政セミナー 2007.1)
- 名古屋市道駒止歩行者転倒事件(最高裁判平成18年11月14日、道路行政セミナー 2008.6)
橋梁関連の事故
橋梁の耐荷力が低下しているのに通行制限をしていなかったり、橋梁部が狭かったり、旧橋が撤去されているのに解りやすくなっていなかった場合や、橋梁の高欄などにすきまや破損などの不備があった場合などの事故です。
管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2) 。
橋の重量制限がされていなかったことによる事故が2件掲載されています。 橋梁の耐荷力が不足している場合は重量制限の標識の設置が必要です。 2件とも過失相殺はあるものの管理に瑕疵があったとされています(小山市道木橋損壊車両転落事件)。
橋梁部の幅員減少を視認しやすくする措置
写真出典〕当サイト撮影(R1.9)
幅員の狭い橋梁が架かっている箇所や、橋梁が撤去された箇所での事故は11件が掲載されています。 そのうち4件では運転ミスなどが事故の原因とされ管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵を認めた裁判例では、橋梁の撤去や幅員減少を視認しやすくする措置が講じられていなかった箇所での事故などがあります(千葉国道16号親柱衝突事件、参考:橋梁の通行止めの実施例)。
橋梁から車両や歩行者が転落した事故は21件が掲載されています。
車両が転落した事故は4件で、3件は運転ミスなどで管理瑕疵を問われていません。
大人が転落した事故は12件で、そのうち7件で7〜8割の過失相殺のもと管理瑕疵を問われています。 主に高欄の破損部や隙間から転落した事故などです。(橋梁歩行者転落事件)。
子どもが転落した事故は5件で、そのうち2件で管理瑕疵を問われています。 高欄が無い橋からの転落事故などです。
小山市道木橋損壊車両転落事件 (東京高判昭和54年7月23日)
○ 事故の概要
昭和51年(1976)。 総重量23トンのダンプ車が制限荷重2トンの木橋を渡ったため、橋桁が折れ川に転落し運転者が負傷した。
○ 判決の要旨
重量制限の標識の設置、保存は必要不可欠で、それがされていなかったので道路の管理に瑕疵がある。
重量のある車が同橋を通行する危険を予想するのは困難ではなく、5割の過失相殺をする 1) 。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.265
千葉国道16号親柱衝突事件 (東京地判昭和42年3月27日)
○ 事故の概要
昭和40年(1965)。 午後11時半頃、乗用車が橋の左側の欄干の親柱に衝突して川に転落し、同乗者が死亡した。
橋の幅員が狭いため、左側の親柱は、車道左側部分のほぼ中央を進行して直進すると、ちょうど正面に突き当たる位置にあった。
○ 判決の要旨
対向車の前照灯により前方の確認がわずかに遅れたことにより事故の危険がある状況は、安全性の保持に欠けるところがあった。
状況をあらかじめ認識させうるような設備、すなわち橋のかかり口の手前に照明又は遠方から視認できるようなガードレールを設置し、あるいは進路手前に先方で道路が狭くなる旨を予告する道路標識を設置するなどの措置が必要であった 1) 。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.258
橋梁歩行者転落事件 (福岡地判平成22年8月19日)
○ 事故の概要
平成20年(2008)。 歩行者が川沿いの道路と橋との角から高架下の河川敷に転落し死亡した。
○ 判決の要旨
現地の状況は次のようだったので、通常有すべき安全性を欠いている。
事故現場の状況 1)
- 「防護柵の設置基準」の適用前に設置された道路や橋で基準の適用対象外だが、基準の制定から10年が経過している。
- 橋の下は高さ約7mのほぼ垂直の擁壁で、落下すると死傷する危険が高い。
(基準では転落防止柵が必要) - 地覆の高さは30p。
(基準の転落防止柵の標準高さは1.1m) - 親柱とフェンスとの間の隙間は48〜77p。
(基準で望ましいとされている桟間隔は15p以下) - 橋の交通量は多く、様々な人の通行が想定される。
- この橋の別の角や近隣の橋の隙間はフェンスやポール、バー等で遮断されている。
被害者は相当程度酒に酔っていて、注意力や平衡感覚が低下していたため、8割を過失相殺する 1) 。
1) 訴訟事例紹介 橋の欄干と川沿いの道路に設置された金網フェンスとの間から落下した事故について、道路の管理瑕疵が争われた事例(道路行政セミナー 2012.5)
ガードレール等に関する事故
道路管理瑕疵の資料では、車両用防護柵や横断抑止柵、転落防止柵に関連する事故が「ガードレールに関する事故」としてまとめられていることが多くあります。 ここでは、これらが設置されていなかったり隙間があったことによる事故を紹介します。
防護柵の設置の要否については、『防護柵の設置基準(リンクは旧版)』がありますが、裁判例では『道路の安全性の判断にあたっては、法令上の安全基準のみならず通常予想される危険を防止し得るか否かをも考慮すべき(最高裁判昭和57年10月1日)』として設置基準をそのまま当てはめるのではなく、個別的具体的に判断されています。 また管理瑕疵がないとされた判例が過半を占め、管理瑕疵があるとされた判決でも、過失相殺をされていない事件が見当たらず、最大8割5分と大幅な過失相殺をされている事件が多いという特徴があります。
管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2) 。
車両用防護柵が無かったために、車両の被害が拡大した事故などは24件が掲載されています。 そのうち7割の事故では車両用防護柵の設置の必要性が認められないとして、管理瑕疵がないとされています(福井県道ガードレール不備車両衝突事件)。
車両用防護柵に車両が衝突した事故は6件が掲載されていて、そのうち4件では管理瑕疵がないとされています。 路側帯と車道の間のガードレールが始まるような箇所で、照明や反射板がなくガードレールが見えにくくて衝突した事故(長野地飯田支判昭和48年6月29日)など2件では管理瑕疵が問われています。
転落防止柵
写真出典〕当サイト撮影(R1.5)
歩道幅員減少部に設けられた転落防止柵
写真出典〕当サイト撮影(R1.11)
大人の歩行者や自転車が車両用防護柵や転落防止柵がない箇所で道下に転落をした事故は29件が掲載されていて、その4割は管理瑕疵がないとされています。 管理瑕疵があるとされた事故としては、道路が途切れた地点から用水路や河川に転落した事故(大阪府道歩行者河川転落事件)や、溢水のため路面と識別不可能な用水路に転落した事故(奈良地判昭和57年3月26日)などがあります。 なお、蓋が無いために側溝などに転落した事故は、「側溝蓋などに関する事故」に掲載しています。
子供がガードレールがない箇所などから転落をした事故は6件が掲載されていて、そのうち3件で管理瑕疵が問われています(神戸市道防護柵不全児童転落事件、長崎市道ガードレール不備児童転落事件)。
車両用防護柵や転落防止柵の隙間や破損箇所から、歩行者や自転車が転落した事故の裁判例は4件が掲載されています。 切れ目が広く開いていて転落した事故(大阪地判昭和52年6月30日)や破損箇所から転落した事故など3件で管理瑕疵が問われています。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年
2) 道路行政セミナー(道路新産業開発機構)
福井県道ガードレール不備車両衝突事件 (名古屋高金沢支判昭和53年10月18日)
○ 事故の概要
昭和49年(1974)。 ガードレールのないカーブで乗用車が路外に転落して、同乗者が死亡した。
○ 判決の要旨
事故現場の安全施設として、視線誘導標やカーブミラーなどが設置されており、通常備えているべき安全性は確保されている。
防護柵設置基準は、より高度な安全性を目指したものであるから、基準によれば設置が相当とされている箇所に設置されていなかったからといって、道路の管理に瑕疵があるとは言えない。
本件事故は、運転上の重大な過失等によって引き起こされた 1) 。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.312
大阪府道歩行者河川転落事件 (最高裁判平成14年3月12日)
○ 事故の概要
平成9年(1997)。 午後11時30分頃、河川で行き止まりになる歩道のガードレールに躓いて河川に転落し死亡した。 ガードレールは転落防止のために高さ80cmで設置されていたが、河川敷を駐車場などで不法占拠している者が高さ38cmで移設していた。
○ 判決の要旨
歩道は、飲酒している者を含め、種々雑多な歩行者が危険な現場に近づかないようにすべきであったが、不法占拠者に原状回復を勧告しただけだったことに管理上の瑕疵がある。
照明によりガードレールを視認することも比較的容易であったのに、被害者は飲酒により注意力が散漫になっていたこと等から、被害者の過失割合を6割と認める。
(河川管理者である府、市、河川敷占拠者も有責) 1) 2)
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.329
2) 訴訟事例紹介 府道歩行者転落事故損害賠償請求事件(道路行政セミナー 2002.10)
長崎市道ガードレール不備児童転落事件 (福岡高判昭和51年8月15日)
○ 事故の概要
昭和49年(1974)。 下校途中の小学生が、道路端の水止めコンクリート(幅約20cm、高さ約10cm)に乗って歩行中、約3m下の私道に転落し死亡した。
○ 判決の要旨
通学道路で児童が水止めコンクリートの上を遊び歩行することは予知し得たはずで、事故発生部分にガード・フェンスを設置する等の防護措置を取らなかった点について道路管理に瑕疵がある。
児童には危険を回避する弁識能力があったものとみるべく、4割を過失相殺する 1) 。
1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.307