永代橋は永代通りが隅田川を渡る橋で、関東大震災の復興で大正15年に架けられました。『帝都水路の偉彩たるべきである』として架けられた豪壮雄大な曲線美を有するタイドアーチの橋は、重要文化財に指定されています。 初代の永代橋は、徳川5代将軍綱吉の時代に架けられ、江戸時代に日本橋梁史上最大の事故を起こしています。
永代橋の諸元等

永代橋
図表出典〕東京都、東京都の橋、2005、P.14
永代橋(えいたいばし)は、永代通りが隅田川(すみだがわ)を渡る橋梁で、関東大震災の復興事業で内務省復興局が架設し、東京市に移管しました。
上部構造は、橋端部に水平力が及ばない支間長100.6mの下路(かろ)式タイドアーチと、その両側の突桁と吊桁からなり、突桁はタイドアーチと連続的な曲面をつくっており、重要文化財に指定されています 1) 2) 。
- 橋梁名 ‥ 永代橋
- 道路名 ‥ 永代通り(都道10号東京浦安線、放射第16号線)
- 所在地 ‥ 東京都中央区新川一〜江東区永代一
- 竣工年月日 ‥ 大正15年(1926)12月22日
- 橋長×有効幅員 ‥ 184.7m×22.0m
- 形式 ‥‥ 三径間カンチレバー式タイドアーチ鋼橋
- 重要文化財 永代橋(東京とりっぷ)
- Kure散歩|東京の橋めぐり 第3回 永代橋(その1)、(その2)、(その3)(コア東京Web)
- 永代橋(Bridge Watching)
- 東京インフラ017 永代橋(土木図書館 ドボ博)
1) 永代橋(歴史的鋼橋集覧)
2) 永代橋(国指定文化財等データベース 文化庁)
現橋への架け替え(震災復興)

永代橋の横景
写真出典〕当サイト撮影(R2.7)

永代橋の橋上
写真出典〕当サイト撮影(R2.7)
永代橋は、関東大震災の復興計画で現在の放射第16号線の復旧として架け替えられました。 永代橋は当時、隅田川の最下流で、船運が多いことから中央径間は広い方が望ましく、『帝都水路の偉彩たるべきである』として、豪壮雄大な曲線美を有するタイドアーチが選ばれ、側径間には吊桁が配置されました。
基礎は地盤が悪いため、平均潮位下約24〜28mのニューマチックケーソン(潜函)が採用され、ほとんどが日本の技術で造られた復興橋梁には珍しくアメリカから技術者を招いて施工しています。 橋脚や橋台は鉄筋コンクリートを花崗石で化粧しています。
架橋地点の地盤が軟弱なため、上部構造は橋脚や橋台に水平反力を生じさせないタイドアーチとし、当時、我が国で最大の100mの支間を実現するとともに、アーチのタイなどには当時海軍が開発していた高張力鋼を用いて断面を小さくしています 1) 2) 3) 5)。
1) 帝都復興事業誌 土木篇(上巻)(昭和6年、国会図書館デジタルコレクション、P.343)
2) 復興橋梁資料室(Bridge Watching)
3) 橋梁設計図集 第二輯 永代橋(復興局土木部橋梁課編、シビル社、昭和3〜4年発行、土木学会図書館)
4) 橋梁設計図集 第二輯 永代橋 設計図(復興局土木部橋梁課編、シビル社、昭和3〜4年発行、 〃 )
5) 新永代橋の型式選定に就て(田中豊、土木建築工事画報、第3巻第3号、1927年)
6) 震災復興橋梁工事写真 1.永代橋工事(土木学会附属土木図書館)
重要文化財指定等
永代橋は、平成19年(2007)6月に、清洲橋、勝鬨橋とともに重要文化財に指定されました。
重要文化財の指定基準のなかでは、『意匠的に優秀なもの』及び『技術的に優秀なもの』とされ、解説文では、『永代橋は,放物線状の大規模ソリッドリブアーチを中心とする荘重な造形により,近代的橋梁美を実現している。また,建設当時,我が国で最大支間(しかん)を実現した鋼アーチ橋であり,大規模構造物建設の技術的達成度を示す遺構として重要である。』とされています 1) 。
景観デザインとしては、『「震災復興事業の華」と謳われ女性的と形容される清洲橋に対して、本橋は「帝都東京の門」と言われ、力強く男性的な曲線美が魅力である。 ドイツライン川のレマーゲン鉄道橋をモデルとしている。 橋梁群の考え方に於いて規範的な事例。』との評価も受けています 2) 。
永代橋の歴史
江戸時代
永代橋の架設
初代の永代橋は、徳川5代将軍綱吉の時代の元禄11年(1698)8月(元禄9年の説もあります)に現在の橋より約200m下流に、橋長207m(114間)、幅員6.8m(3間4尺5寸)、桁下3m(1丈)の橋として架けられました。 隅田川下流では、両国橋、新大橋に続く3つめの橋で、新大橋の架橋後わずか5年に、新大橋から1.2kmしか離れていないところへ架橋されました 1) 2)。
橋の管理の民営化
火災や洪水で橋が失われた時の架け替えに加えて、木橋は耐用年数が20年程度のため、木橋の架け替えや修繕には多額の費用がかかります。 8代将軍吉宗の時代に財政再建のために「享保(きょうほう)の改革」に着手した幕府は、享保4年(1719)に架橋から21年がたって老朽化した永代橋を廃止することにしました。 しかし、地元の町方からの要望で、橋の架け替えや維持管理を町方が行うことを条件に存続を認めました。 町方の負担は相当大きかったようで、架け替えなどで多額の費用が必要な場合は、期間を限って橋銭1〜2文を取ることが認められ、10年後の享保14年(1729)には民間で架け替えが行われています。 しかし、町方の管理を続けていくうちに橋脚杭が細くなったり根入れが浅くなるなど、橋の管理水準が低下していきました 2) 4) 5)。
落橋事故
本格的な補修記録もないまま5年が経過した文化4年(1807)の深川の富岡(とみおか)八幡宮の祭礼の日に、橋上に多くの人が通行していた老朽化した永代橋が落橋し、500人を超える死者をだす、橋梁史上最大の事故が発生しました。 事故原因は、群衆荷重を受けた橋脚杭が泥中に2.1〜2.4mほどめりこんだために桁が折れたとされています 2) 5)。
この事故のあと、民営化されていた3橋が幕府管理に戻され、永代橋と新大橋は翌年、吾妻橋は4年後に架け替えられました 7)。
1) 永代橋(錦絵でたのしむ江戸の名所 国会図書館)
2) 江戸時代における永代橋の民間管理(平成25年度 国土交通白書)
3) 東京市史稿 橋梁篇第一 永代橋創架(国会図書館デジタルコレクション)
4) 享保期における江戸の橋の民営化について(松村博、土木史研究講演集、Vol.24、2004年)
5) 永代橋落橋前後の隅田川橋梁の構造比較(松村博、土木史研究講演集、Vol.26、2006)
6) 東京市史稿 市街篇 永代橋墜落(東京大学史料編纂所)
7) 江戸の橋年表(松村博、土木史研究講演集、Vol.27、2007)
明治〜大正時代
洋式木橋への架け替え
明治新政府は、明治8年(1875)に、隅田川下流部4橋の中で初めて永代橋を洋式木橋に架け替えました 1)。
鋼橋への架け替え
明治30年(1897)11月、ピン結合の下路式曲弦プラットトラス橋に架け替えられました。 この橋は、橋長182m(100.2間)、幅員14.2m(7.8間)の日本の道路橋として初めて錬鉄(れんてつ)ではなく鋼材を使った橋で、使用した鋼材は全て輸入品でした 2) 3) 4) 5)。
錬鉄と鋼鉄
鉄橋の主要部材は、歴史的に鋳鉄(いもの)、錬鉄、鋼鉄(はがね)と変化してきました。
鋳鉄はもろい材料で、我が国に欧米の技術が入ってきたときには主流の材料ではなくなっていため、国内の鋳鉄橋は数が限られています。
錬鉄は鋳鉄より柔らかな材料で、明治期に使われていましたが、現在は生産されていません。
鋼鉄は錬鉄より粘りのある材料で、明治の半ばに日本に入ってきて、明治34年には国産化され、現在でも改良されて使われている材料です。
関東大震災
大正12年(1923)9月1日の関東大震災で、揺れによる被害は限られていたものの、木製の床版が燃えて床版に近接した鋼材も変形したため、現橋に架け替えられました。
1) 永代橋落成(太政官、明治08年03月30日、国立公文書館デジタルアーカイブ)
2) 鉄の橋百選 序文 3.明治の道路橋(土木学会 鋼構造委員会)
3) 明治期における東京の鉄製道路橋と技術者群像(伊東孝、土木史研究論文集、25 巻 (2006) p. 27-39)
4) 新永代橋の型式選定に就て(田中豊、土木建築工事画報、第3巻第3号、1927年)
5) 明治期における主要な橋の配置計画とデザイン思想(伊東孝、日本土木史研究発表会論文集、7 巻 (1987) p. 155-162)
永代橋竣工後の改良等

永代橋のライトアップ
写真出典〕当サイト撮影(R4.5)
景観整備では、著名橋整備事業で、昭和61年度(1986)から平成2年度(1990)にかけて、橋灯の復活や歩道整備などが行われています 1) 2) 3)。
耐震補強や長寿命化では、アーチリブへの補剛材の追加と、水平支承や落橋防止システムの設置がされています 4) 5)。
ライトアップは平成2年度(1991)に整備されましたが 1)、令和2年(2020)1月に中央のアーチと両サイドの桁は塗装色と同じ青色系、垂直方向の吊り材は下から上に照らし上げて陰影をつけた白色系の投光照明にリニューアルされました 6) 7) 。
1) 歴史的鋼橋の保存の目的と補修・補強技術に関する研究(永田礼子、佐々木葉、土木史研究講演集、Vol.24、2005年)
2) 1985.03.06 : 昭和60年第1回定例会(第3号) 本文(東京都議会会議録検索)
3) 1989.08.31 : 平成元年建設清掃委員会 本文( 〃 )
4) 供用下にある歴史的土木構造物に関する調査(五十畑弘、土木学会論文集D2(土木史)、72巻 (2016) 1号 p.20-39)
5) 重要文化財(建造物)耐震診断・耐震補強の手引(改訂版)事例集 48 永代橋・清洲橋(文化庁)
6) 隅田川に架かる橋のライトアップ(東京都建設局)
7) 隅田川橋梁群のライトアップ点灯開始(第2弾)( 〃 )
- 相生橋 ← 下流
- 上流 → 清洲橋