道路の上に沿道の建物の袖看板が出ているとか、建物の工事のために一時的に道路上に足場を組むとか、水道事業者が道路に水道管を埋設するというような、道路管理者以外の人が道路に物件を設置して道路を継続的に使うことを道路の占用といい、道路管理者の許可が必要です。
〔目次〕
道路占用の概要
道路占用とは
道路占用(日よけ、看板、工事用足場等)
図表出典〕国土交通省近畿地方整備局HP
道路占用(水道、下水道管、ガス管、電柱、電線等)
図表出典〕国土交通省HP(リンク切れ)
道路の上に沿道の建物の袖看板(突き出し看板)が出ているとか、建物の工事のために一時的に道路上に足場を組むとか、水道事業者が道路に水道管を埋設するというような、道路管理者以外の人が道路に物件を設置して道路を継続的に使うことを道路の占用といい、道路管理者の許可が必要です。
車の出入りのために歩道に切り下げを設けるというような、必要があって道路管理者以外の人が道路の工事するときは『承認工事・自費工事』、道路管理者が接続する他の道路管理者の道路にカーブミラーを設置するというような、道路管理者間の場合は『管理者間協議』となり、道路占用とは異なる仕組みで処理されます。
占用による道路の使用
道路の使い方は下表のとおり、一般使用と特別使用に分けられ、特別使用は更に許可使用と特許使用に分けられます 1)。
分類 | 道路の使い方の例 | |
一般使用 | 道路を本来の目的である一般の自由な通行に用いること(道路法 第2条)。 | |
---|---|---|
特別使用 | 許可使用 | 一般的な禁止を特定の場合に解除して用いること。 例〕道路交通法の道路使用許可(道路交通法 第77条) |
特許使用 | 道路に特定の使用権を設定して用いること。 例〕道路法の道路占用許可(道路法 第32条) |
道路占用は上表の特許使用にあたり、一般使用である自由な通行に支障がない範囲で許可されます。
道路では私権が制限されて私法上の関係が成立しないため、道路の土地を利用する関係はすべて占用になり、道路管理者の占用の許可を受けないと不法占用になります 2) 。 占用は、道路管理者が一方的に許可を取り消すことができるなど、民法上の賃貸借契約とは異なるルールが適用されます(道路法 第71条第2項)。
1) 原龍之介、公物営造物法、新版、有斐閣、1985、P.251〜252
2) 道路法令研究会編著、改訂6版 道路法解説、大成出版社、2023、P.292
道路占用に関する法の定め
道路の占用の基本的なことは、道路法(第3章第3節)、道路法施行令(第2章)、道路法施行規則(第4条の3〜第4条の5の5)に定められています。 これらを補足する400本近い通達や通知が出されています 1) 。 一部の法律には道路の占用の定めがあります。
1) 道路管理研究会 編集、道路占用関係通達集 第8次改訂版、2021 (通達集の目次、国立国会図書館)
・ 国土交通省 告示・通達一覧(収録されていない通達も多くあります)
占用等について規定している他の法津の例
都市再生特別地区に関する都市計画に定められた道路の区域の上空等について、建築物の建築等を可能とする(都市再生特別措置法 第46条第10項〜第11項)。
都市再生整備計画の区域内において道路管理者が指定した区域に設けられる広告塔等、食事施設等、自転車駐車器具の占用許可基準から余地要件の適用を除外する(都市再生特別措置法 第62条)。
道路内の建築が制限される(建築基準法 第44条)。
条例で広告物等の禁止や制限ができる(屋外広告物法 第3条〜第6条)。
実務上の対応
道路占用許可件数(東京都管理道路)
図表出典〕東京都HP 2)
道路占用の業務は、関東地方整備局では年間9,500件 1) 、東京都では年間35,000件 2) と、大量の申請に対応する業務です。
占用の実務では、それぞれの道路管理者が、法の定めに加えて地域の実情などを踏まえて、道路占用規則や道路占用許可基準、マニュアルなどを定めて実務を行っています。 マニュアル等には種々の差異があるため、認められる占用物件に違いがあったり、工事用足場などで認められる出幅の値が違ったり、認められる復旧工法に違いがあったりします。
当サイトでは道路法などに定められている基本的なことのみを紹介します。 それぞれの道路管理者のもとで個別の物件の占用業務に携わるときは、その組織で用いられている基準やマニュアルによってください。 道路占用を申請しようとする際は、道路管理者の占用窓口で事前相談を行ってください。
- 道路占用許可基準(神奈川県庁)
- 道路占用許可基準(長野県庁)
- 道路占用許可基準(島根県庁)
- 横浜市道路占用規則、道路占用許可基準(横浜市役所)
- 千葉市道路占用許可基準(千葉市役所)
- 道路占用許可基準及び道路占用物件配置標準(東京都庁)
- 川崎市道路占用規則、道路占用許可基準(川崎市役所)
- 神戸市道路占用許可基準要綱(神戸市役所)
1) 道路維持管理業務(総務省 第12回官民競争入札等監理委員会)
2) 見える化改革報告書「道路管理事業」(東京都都政改革本部)
占用の可否の判断
それぞれの道路管理者が定めているマニュアル等は、一般に電柱、管路、袖看板(突き出し看板)、工事用仮囲い、足場など、物件毎に占用許可ができる細目を定めています。 これらの一般的な物件の占用の可否はマニュアル等で審査します。 マニュアル等が対象としていない物件や、マニュアル等の条件から外れる申請の審査は、法の定めに立ち戻って審査します。
道路法には占用が許可される物件が定められています。 許可は、3つの要件と3つの原則で判断します。 許可には条件を附します。
占用が許可される物件
占用物件として許可をされる可能性があるものは道路法に列挙されたものに限られます(道路法 第32条、道路法施行令 第7条)。
これらは限定列挙なので、列挙されていないものは許可できません。 法の「これらに類するもの」も限定列挙の趣旨に反しないよう厳格に判断すべきものとされ、具体には通達や道路法解説などに示されています 1) 。
- 道路機能を多様化するための枠組み 占用物件@〜B(国土交通省 人間重視の道路創造研究会)
- 道路管理研究会 編集、道路占用関係通達集 第8次改訂版、2021(通達集の目次、国立国会図書館)
- 国土交通省 告示・通達一覧
1) 道路法令研究会編著、改訂6版 道路法解説、大成出版社、2023、P.281
参考〕許可をされない物件の例
- 路面に直接置くものは許可できません(自動販売機・置看板・立看板・商品台など)(北陸地方整備局)
- 立て看板・商品台等 道路上に立て看板、広告板、旗ざお、商品台、自動販売機その他これらに類するものを置くことは、祭礼のため一時的に設けるもの以外認められません。
はり紙、はり札等 道路上の電柱、照明灯、防護柵等に広告物(看板)等をぶらさげたり、はり付けたり、立てかけたりすることは、認められません。(名古屋国道事務所) - 許可が受けられないもの‥置き看板・立て看板、商品置場、自動販売機、ノボリ旗や横断幕、露店、売店、装飾ひさしや軒、クーラー室外機、ベンチ、フラワーポット、資機材、自転車やバイク、自動車、広告、看板などの支柱など
※ 設置の期間(一時的)によっては許可となるものもあります(首都国道事務所) - 歩道の幅を狭める個人のものは原則不許可です。
置き看板、たて看板、商品置場、自動販売機、ノボリ旗や横断幕、露天・売店、装飾ひさしや軒、クーラー室外機、ベンチ、フラワーポット、資機材、自転車・バイク、自動車、広告支柱、看板支柱等は許可していません。(千葉県)
占用許可の3要件
次の3つの要件のいずれかが欠けている占用の許可はできません(道路法 第33条)。
物件の類型該当 ‥占用物件が道路法や道路法施行令に列挙されているものであること。無余地性 ‥道路の占用が、道路の敷地外に余地がないためやむを得ないものであること。政令基準 ‥占用の場所や構造などが、政令で定める基準に適合していること。
第一の占用が許可される物件は、前に記載のとおりです。
第二の「敷地外に余地がない」とは、いわゆる無余地性と言われるもので、他に余地があれば占用は認められません。 ただし、ほこみちや、道路交通環境の向上を図るNPO等が設ける街灯やベンチなど、道路法第33条第2項に掲げられたものは、無余地性の要件は適用されません。 また「やむを得ない場合」とは、申請者の個人的な事情を考慮するものではなく、諸般の事情を考慮して他に用地を確保することが著しく困難な場合とされています 1) 。
第三の政令では、占用の期間、場所、構造、工事の方法や時期、道路の復旧の方法が定められています(道路法施行令 第9条〜第16条、道路法施行規則 第4条の3の2〜第4条の4の7)。
1) 道路法令研究会編著、改訂6版 道路法解説、大成出版社、2023、P.327〜328
占用条件等の緩和や特例
○ 無余地性の基準などが緩和されるもの(道路法 第33条第2項)。
- 高架の道路の路面下
- 高速道路の連絡路付属地の利便増進施設
- 歩行者利便増進道路(ほこみち)の利便増進誘導区域内
- 防災拠点自動車駐車場内の災害応急対策施設等
- 道路交通環境の向上を図る特定非営利活動法人などの工作物や施設
- 自動運行補助施設
○ 道路占用許可の弾力的な運用が行われているもの。
- 道路占用許可手続(国土交通省)
- 道路利活用促進のための規制緩和(平成27年2月12日、規制改革会議 地域活性化ワーキング・グループ)
占用許可の判断の3基準
占用の許可をするかどうかは原則として道路管理者の自由裁量で、上述の占用許可の3要件を満たしている申請を許可しないこともできます。 ただし、期間更新の許可については、占用を継続させることが適当でない特別の理由がない限り許可すべきと考えられています 1) 。
下記の3つの基準に照らして、許可の可否を判断します 1) 。
公共性の原則 ‥道路占用は、国民の税負担で建設管理される道路の使用であり、多少なりとも一般使用である自由な通行を阻害します。 そのため、特定人の公共性のない占用を認めるべきではなく、また、道路占用相互間では、公共性の高いものを優先させます。
計画性の原則 ‥占用は、将来の道路計画や都市計画、周辺の土地利用計画と整合したものでなければなりません。
安全性の原則 ‥占用は、道路の構造や交通に多少なりとも支障を及ぼします。 その支障は最小限に留めるべきなので、施行令に規定されていない事項についても慎重に審査を行います。 特に、交通の安全を阻害する占用は排除します。
1) 道路法令研究会編著、改訂6版 道路法解説、大成出版社、2023、P.293〜294、336
参考〕許可をされないものの事例 (東北地方整備局)
- 道路の建築限界をおかしているもの(路面からの高さが基準を満たしていないもの)
- はく離または落下等の危険があるもの
- 表示の内容及びデザイン等が美観風致をそこなうもの
- 道路(附属物‥橋、横断歩道橋、街路樹、道路標識、ガードレール等を含む)に直接立て、または添架するもの
- 信号機及び道路標識その他これに類するものに障害をあたえるもの
- その他道路管理上特に支障を及ぼすもの
占用許可の条件
占用許可には条件を附します。 この条件は、大きく分けると次の2点になります。
- 道路の構造の保全や、交通の危険の防止、円滑な交通を確保など、占用者の将来にわたる責任に関する事項(道路法 第87条)
- 占用工事の実施の方法や道路の復旧方法等の中心の、占用工事に関する事項(道路法 第34条)
実務的には、すべての許可に一般的な条件を附すとともに、物件の特殊性や場所の状況などから必要となった特記条件を附しています。
占用許可に条件が必要な理由の一例
占用許可に、何ら「特別の定」がないと、占用者が占用の利益を受ける一方で、道路工事の際の占用物件の改築や移転の費用を税金で負担するなどの問題が生じることがあります(道路法 第62条、道路法 第59条)。 このようなことを避けるため、次のような条件が附されます。
道路に関する工事または道路の維持のため、やむを得ない必要が生じたときに、占用物件の改築、除去等の措置を命ずることがある。その費用は原則として占用者の負担とする。
公益事業のための道路占用の特例
水道や電気、ガス事業などの公益事業のための道路占用は、その公益性と大量性から下記の特例が設けられています(道路法 第36条、道路法施行令 第18条)。
- 道路管理者は、当該占用が施行令で規定する許可基準に適合していれば許可をする。
- 緊急工事や軽易な工事等を除き、占用者は工事実施の1ヶ月前までに工事計画書を提出する。
公益事業のための特例が認められるのは、水道法など道路法第36条に列挙された法令の規定基づいて占用物件を設置する場合に限られています。 そのため、自家用の水道管や、認定電気通信事業者ではない者が設ける電線などは特例の対象になりません。
工事調整
公益事業は大量の掘削工事を伴うため、道路管理者は工事計画書に基づいて工事の調整を行います(道路法 第34条)。 道路工事調整会議に道路管理者が道路工事等の計画を、公益事業者が埋設工事等の計画を提示して、工事の順序や時期、方法などを話し合って全体の工事が円滑に進むように調整します。
占用物件の管理
占用者は、国土交通省令に定める基準に従って占用物件の管理をしなければいけません。 水道法や下水道法、ガス事業法、電気事業法、電気通信事業法の維持管理の基準に従って維持管理が適切になされている場合には、省令に定める基準に従って維持管理がなされているものと認められます。
道路管理者は占用者に報告を求めたり、立ち入り検査をすることができ、適切な管理がされていないときは是正のために必要な措置を命じることができます(道路法 第39条の8〜9、道路法施行規則 第4条の5の5、道路法 第72条の2)。
- 占用物件の維持管理等について(平成29年4月14日、第61回基本政策部会配布資料)
- 道路法等の一部を改正する法律の施行について(平成30年9月28日国道利第20号・国道メ企第11号、国土交通省道路占用)
- 占用物件の維持管理義務に係る報告及び立入検査の実施について(平成30年9月28日国道利第22号・国道メ企第13号、 〃 )
道路の占用の禁止又は制限区域等
道路管理者は、一定の場合に区域を指定して道路の占用を禁止したり制限することができます(道路法 第37条)。 緊急輸送道路で電柱の新設を制限する措置が広く講じられつつあるほか、道路幅員や歩道幅員が著しく狭い道路でも制限が行われています。
その他の規定
道路占用の許可と道路使用の許可の双方が必要な場合(道路交通法 第77条〜第79条、道路法 第32条第4項、第5項)。
道路管理者は、占用に関する工事のうち道路の構造に関係のあるものを自ら工事をすることができます(道路法 第38条、道路法 第23条)。
占用料を納付しない者は強制徴収の対象となります(道路法 第73条、道路法施行令 第36条)。