RC橋、RC部材の損傷原因

(塩害、アルカリ骨材反応、中性化、凍害、疲労)

 鉄筋コンクリートの橋や部材に損傷が生じ、それを補修、補強しようとするときに、どのようなパターンで劣化をしたのかを踏まえて工法を選定しないと、劣化を止められずに、早期に補修や補強の効果が失われてしまうことがあります。

 代表的な劣化パターンとして、塩害、アルカリ骨材反応、中性化、凍害、疲労(RC床版)をとりあげて紹介します。

劣化機構の推定の必要性

 構造物の変状は、「初期欠陥」「損傷」「劣化」に分けられます。

 「初期欠陥」である、コンクリートの施工時や施工直後に発生したひび割れや豆板、コールドジョイント、砂すじなどや、地震や衝突などによる「損傷」は、その原因に対応した補修を行います。

 劣化機構としては、塩害、アルカリ骨材反応(ASR)、中性化、凍害、疲労、化学的浸食、すりへりなどがあげられます。 劣化した構造物を補修、補強する際には、劣化機構を推定して、推定した劣化の要因を排除するような工法を選定する必要あります。 大規模な補修や補強をする際には、各種の試験も行って劣化機構を確定していきます。 小規模な補修や補強でも、既往の資料や変状の特徴、構造物のおかれた環境などから劣化機構を推定して工法を選定しないと、劣化の進行を止められず、補修、補強の効果が早期に失われることもあります 1) 。 このページでは、主に劣化が顕在化している場合の劣化機構の推定と、それに対応する工法例について紹介します。

塩害

塩害の概要

塩害状況

塩害によりコンクリート橋の
主桁下面の鉄筋が露出している状況

写真出典〕道路橋の重大損傷 −最近の事例− 平成21年3月

https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo3_1_2.pdf

 コンクリートの塩害は、海岸付近での飛来塩分や凍結防止剤の塩分などがコンクリートの内部に浸透し、鉄筋やPC鋼材が腐食・膨張し、コンクリートにひび割れが入り構造物が損傷する現象です。

 鉄筋コンクリートの場合、コンクリートの中は高いアルカリ性のため、鉄筋のまわりには不働態被膜が形成され、鉄筋は錆びません。 コンクリートの表面に塩分が付着した場合、内部に塩化物イオンが侵入して不働態被膜が壊れ、鉄筋が腐食、膨張して、コンクリートのひび割れや剥離・剥落、鉄筋の断面減少が生じます。

塩分の供給源

 塩分の供給源は、海岸付近での飛来塩分、凍結防止剤の塩分と、コンクリート製造時に海砂などが使われていた場合などが考えられます。

 海岸付近での飛来塩分については、道路橋示方書に「塩害の影響地域区分」が示されており、海岸線から200〜700m以内と沖縄県が影響を受ける地域とされています。

凍結防止剤の影響

定期点検の健全度分布の
凍結防止剤散布量による比較

図表出典〕道路メンテナンス年報 平成28年9月

https://www.mlit.go.jp/common/001145361.pdf

 凍結防止剤の塩分は、道路橋示方書で配慮が必要とされています。 伸縮装置から凍結防止剤を含んだ水が浸入する桁端部や橋座面は腐食環境の厳しい部位であると考えられています 2) 。 右図のように、凍結防止剤が使われている道路の方が、橋梁の損傷が大きい傾向があります。

 コンクリート製造時に含まれる塩化物は、昭和61年(1986)のJISの改訂から検査が行われるようになったため 3) 、それ以前の構造物で、海砂が使われる西日本などでは大量の塩分が含まれている可能性があります。

 なお、塩害による劣化を防ぐために,外部からの塩化物イオンの侵入を防ぐことを目的としてコンクリート表面に塗装をした構造物や,コンクリート中の塩化物イオン濃度が高まっても腐食しないように塗装鉄筋を使用した構造物もあります。

塩害による劣化の進行

 「コンクリート標準示方書 維持管理編」では、鋼材の腐食が始まるまでを「潜伏期」、鋼材の腐食が始まった時からを「進展期」としており、この段階までは外観上の変状は見られません。

 コンクリートに腐食ひび割れや浮きが発生し、さび汁が見られるようになり、鋼材の腐食速度が増大する期間を「加速期」、鋼材の腐食量の増加により、腐食ひび割れの進展に伴う大規模な剥離・剥落や鋼材の著しい断面減少が見られ、耐力の低下が顕著な期間を「劣化期」としています。

 「加速期」に至ると劣化の進行が早まり、鋼材の著しい断面減少が見られる「劣化期」になると補強に多大な経費を要するため、早期の対応が必要です。

塩害に関する特定点検

 国土交通省が管理する橋梁については、『コンクリート橋の塩害に関する特定点検要領(案)(平成16年3月、国土交通省道路局、四国技術事務所』と『塩害橋梁維持管理マニュアル(案)(平成20年4月、橋梁塩害対策検討委員会、北陸地方整備局』が定められています。

 特定点検要領は、塩害による損傷が現れていないものの、道路橋示方書の「塩害の影響地域」にある橋梁の特定点検に用い、塩化物イオンの試験結果等から補修の要否を検討するものです。

 塩害橋梁維持管理マニュアルは、定期点検等で外観に塩害によると思われる損傷が現れている橋梁について、詳細調査や劣化予測を行い対策方法を選定するものです。

塩害に対応する工法例

 『塩害橋梁維持管理マニュアル(案)』では、次の対策工法の例をあげています。

 これらの工法の内容については、『RC橋、RC部材の補修補強事例』のページで紹介しています。

表−健全度ごとの対策方針の考え方と対策の例
健全度 対策方法の分類 対策の例
損傷原因が塩害以外 塩害対策は不要 塩害対策は不要
将来塩害による損傷の発生が懸念される 塩害による損傷が将来発生する可能性があるため,損傷の発生を抑制するための補修対策が必要 表面塗装、桁カバー、電気防食
損傷原因が塩害 塩害が原因の損傷が見られるため,損傷の進行を抑制または現状の性能を維持するための補修対策が必要 損傷が局部的な場合‥犠牲陽極材を用いた電気防食、断面修復(防錆処理含む)、桁カバー、コンクリート片剥落防止措置、表面塗装、電気防食、脱塩+表面塗装
損傷が全体的な場合‥電気防食、脱塩+表面塗装、コンクリート片剥落防止措置、表面塗装
損傷原因が塩害で、鋼材の破断が認められる 塩害が原因の損傷が甚大なため,耐荷性能の確認と評価を行うとともに安全確保のための早急な対策の実施と,更新を含めた恒久対策の検討が必要 補修・補強対策を実施する場合‥FRP接着、外ケーブル、中間支柱の設置、犠牲陽極材を用いた電気防食、電気防食、脱塩+表面塗装、コンクリート片剥落防止措置、断面修復、桁カバー
更新を前提とした対策を実施する場合例‥(略)
図表〕塩害橋梁維持管理マニュアル(案) 4) より当サイト作成

アルカリ骨材反応

アルカリ骨材反応の概要

アルカリ骨材反応

アルカリ骨材反応によりコンクリート橋の
床板に生じた亀甲状のひびわれ

写真出典〕道路橋の重大損傷 −最近の事例− 平成21年3月

https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo3_1_2.pdf

 アルカリ骨材反応は、コンクリート中の水酸化アルカリと反応性骨材との化学反応により生成されるアルカリシリカゲルが吸水し膨張してコンクリートにひび割れを発生させる現象です。 アルカリ骨材反応のほとんどは、アルカリシリカ反応であるため、ASRと略されることもあります。

 アルカリ骨材反応によるひび割れは竣工後2〜3年で生じ、5〜6年以上後に目立つようになることが多く、形状は鉄筋量が少ない構造物では亀甲状、鉄筋量が多い部材では主鉄筋の方向に沿った直線的なひび割れになることが多いとされています。

 平成元年(1989)の通達で、アルカリ骨材反応に対して無害な骨材を使用するよう規制されたため、それ以降に建設された橋では、アルカリ骨材反応を生じる可能性は低くなっています。

アルカリ骨材反応による劣化の進行

 「コンクリート標準示方書 維持管理編」では、ひび割れが始まるまでを「潜伏期」、ひび割れが発生するが鋼材腐食がない期間を「進展期」、ひび割れが進展し鋼材腐食が発生する場合もある期間を「加速期」としています 1) 。 アルカリ骨材反応は、比較的幅の大きなひび割れが入りやすいことや、ひび割れ部から滲出した反応ゲルで構造部表面が汚れることなどから、耐力に不安を抱くような外観となりやすいのですが、鉄筋が健全で、かつ引張主鉄筋の定着が健全であれば、部材の耐力の著しい低下は見られないという結果も多く報告されていています 3)

 ひび割れの幅および密度が増大し、部材としての一体性が損なわれたり、鋼材の腐食による断面減少が生じたり、鋼材の損傷が発生するなどして耐力の低下が顕著な期間を「劣化期」としています。

アルカリ骨材反応に関する詳細調査

 国土交通省が管理する橋梁については、定期点検等でひび割れを発見したときに、それがアルカリ骨材反応によるものであるかの判定などの詳細調査を行うための『道路橋のアルカリ骨材反応に対する維持管理要領(案)(平成15年3月、国土交通省道路局、国管理者向け点検要項・新技術 四国技術事務所』と、補修・補強対策を検討する場合の『アルカリ骨材反応による劣化を受けた道路橋の橋脚・橋台躯体に関する補修・補強ガイドライン(案)(平成20年3月、近畿地方整備局 ASRに関する対策検討委員会』が示されています。

アルカリ骨材反応に対応する工法例

 『アルカリ骨材反応による劣化を受けた道路橋の橋脚・橋台躯体に関する補修・補強ガイドライン(案)』では、次のような補修や補強を検討すべきとしています。

  • 鉄筋の破断などで所用の耐荷性能を有していない場合には、補強を行う。(P.46)
  • ASR による変状によりコンクリートが鋼材を腐食から守る性能に著しい低下が生じているおそれがある場合には,これを回復するような補修を行う。(P.25)
  • 今後もASR によるコンクリートの膨張が進行すると予想され,将来的に構造物の耐久性に大きな影響が生じるおそれがある場合には,ASR による変状の進行を抑制するための補修を行う。(P.25)
  • 変状の程度に関わらず,ASR による変状が生じている部位に外部から水分が供給されている場合には,少なくとも水分の供給を防ぐ措置を行うことが望ましい。(P.11)

 また、「コンクリートの鋼材保護性能の回復を目的とした補修」としては、「ひび割れ注入工法」「ひび割れ充てん工法」「断面修復工法」を、「ASR による変状の進行を抑制するための補修」としては、「表面保護工法」「撥水系表面保護工法」「遮水系表面保護工法」を紹介しています。

中性化

中性化の概要

 コンクリートの中性化は、大気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入し、本来強いアルカリ性を示すコンクリートのpHが低下し、鋼材表面の不働態被膜が破壊され、鋼材が腐食、膨張して、コンクリートのひび割れや剥離・剥落、鉄筋の断面減少が生じる現象です。

 コンクリート表面からの中性化深さは、中性化期間の平方根に比例し、中性化残りが10mm以下になると、鋼材が腐食する事例が大幅に増えます。 鋼材の腐食ひび割れなどが起こるまで、外観上の変状は見られません 1)

中性化に対応する工法例

 「コンクリート標準示方書 維持管理編」では、補修に期待する効果と工法の例として、下表を示しています。

表−補修に期待する効果と工法の例
期待する効果 工法例
中性化の進行を抑制 表面処理(剥落防止を含む)、ひび割れ注入
中性化深さを0にする 断面修復(防錆処理、被覆を含む)、再アルカリ化
鋼材の腐食進行を抑制 表面処理(剥落防止を含む)、【電気防食】、断面修復、再アルカリ化、防錆処理、水処理
第三者への影響度の低下 表面処理(主に剥落防止)
【耐力の回復】 【鋼板・FRP接着、巻立て、増厚】
【 】:塩化物イオン濃度が高いことなどにより、鋼材腐食速度が速い場合、腐食量が大きい場合に選定する。 出典〕コンクリート標準示方書 維持管理編 2013年制定、P.159

凍害

凍害の概要

 凍害とは、コンクリート中の水分が凍結する際の体積膨張と、融解の際の水分供給という凍結融解作用を繰り返すことにより、コンクリートが徐々に劣化し、コンクリート表面にスケーリング、微細ひび割れ、ポップアウトが生じる現象です。 スケーリングは、凍結融解の繰り返しによりコンクリート表面がフレーク状に剥離する現象で、ポップアウトは骨材の膨張による破壊で表面に発生するクレーター状のくぼみです。 コンクリート表面から発生する劣化のため、早期に顕在化します。 凍結防止剤の散布や海水飛沫によりコンクリート中に塩化物イオンが供給される場合、凍害によるスケーリングが促進されます 1)

凍害が疑われるコンクリート構造物の維持管理

 北海道開発局は、『道路設計要領 第3集 第2編 参考資料C』で、『凍害が疑われるコンクリート構造物の維持管理に際しては、「凍害が疑われる構造物の調査・対策手引書(案) 平成29年5月改訂 土木研究所寒地土木研究所」によるものとする。』としています。 この手引書には、現場で外観目視調査を行い、コンクリートに発生している変状が凍害もしくは凍害に関連する複合劣化を促す危険性があるか否かを評価し、対策要否の判定、適切な補修補強設計を行うために理解しておくべき基礎知識がまとめられています。

凍害に対応する工法例

 「凍害が疑われる構造物の調査・対策手引書(案)」では、補修、補強に期待する効果と工法の例として、下表を示しています。

表−補修・補強に期待する効果と工法の例(予防を含む)
期待する効果 工法例
水分の供給を抑制 表面処理、ひび割れ注入、排水処理
断面の回復 断面修復、ひび割れ注入
耐荷力向上 増厚、打換え、巻立て
図表出典〕凍害が疑われる構造物の調査・対策手引書(案)P.26

疲労(RC床版)

疲労の概要

 道路橋の鉄筋コンクリート床版は、大きな変動荷重が繰り返し加わる土木構造物の代表で、床版の支間長に比べ床版厚が薄く、輪荷重を直接支える部材であることから、繰返し荷重による疲労の影響が大きくなっています。

 「コンクリート標準示方書 維持管理編」では、疲労による床版の劣化過程は下表のように示されています。

 一般の環境下では、床板のひび割れが進行して床版が抜け落ちるため、床版下面のひび割れに着目して対応します。 凍結防止剤の散布下では、凍害によるスケーリングや塩害による鋼材の腐食が床板上面から進むため、上面下面双方に着目した対応が必要になります。

表−疲労に関する劣化過程の定義(床板の疲労)
劣化過程 定義
潜伏期  主に乾燥収縮により、主桁直角方向に一方向ひび割れ数本程度発生している段階。 主桁の拘束条件によっては、温度変化等によりさらにこのひび割れが進行することもある。 凍結防止剤散布下では、床版上面から塩化物イオンが侵入する。
進展期  主桁作用により、主桁直角方向に曲げひび割れが進展するとともに、主桁方向に床版の曲げによるひび割れも進展し始め、格子状のひび割れ網が形成される段階。 ひび割れ密度の増加が著しいが、床版の連続性(二方向性版)は失われていない。 凍結防止剤散布下では、床版上面から凍害(スケーリング)、塩害(鋼材の腐食)が進展する。
加速期  ひび割れの網細化が進み、ひび割れの開閉やひび割れのすり磨きが始まる段階。 ひび割れのスリット化や角落ちが生じるとコンクリート断面の抵抗は期待できないので、床版の押し抜きせん断力は急激に低下し始める。 凍結防止剤散布下では、鋼材腐食、スケーリング、水分の侵入および疲労の相乗作用により、上側鋼材近傍での水平ひび割れの発生と砂利化が顕在化する場合がある。
劣化期  床版断面内にひび割れが貫通して床版の連続性が失われ、貫通ひび割れで区切られたはり状部材として輪荷重に抵抗することになる段階。 貫通ひび割れの間隔やコンクリート強度、鋼材量等が部材としての終局耐力に影響する。 雨水の浸透や鋼材腐食等にも配慮する必要がある。 凍結防止剤散布下では、水平ひび割れ、砂利化の進行により急速に疲労耐久性が低下する。
出典〕コンクリート標準示方書 維持管理編 2013年制定、P.234

過去の設計上の問題

 ある時期までの橋梁は、床版厚が薄くて床版の配力鉄筋も少なかったり、防水層が設けられていないため、疲労等に対して弱く劣化が進みやすくなっています。

床版の配力鉄筋と厚さ

 昭和48年(1973)の道路橋示方書の改訂でRC床版の設計法が大幅に見直され、最小床版厚は3L+11≧16cm、配力鉄筋は設計断面力から求めるものとなりました。 それ以前は、例えば昭和39年(1964)の示方書では、最小床版厚が14cm、配力鉄筋は主鉄筋の25%以上とされていたなど、疲労耐久性が低くなっていて、コンクリートの抜け落ちなどの損傷も起きています 2)

防水層

 平成14年(2002)の道路橋示方書の改訂で「アスファルト舗装とする場合は,橋面より浸入した雨水等が床版内部に浸透しないように防水層等を設けるものとする」と明記されるまで、床版の防水層は必ずしも設けられていませんでした。

 防水層がなく雨水が床版内部に侵入した場合には、ひび割れへの水の浸入によって疲労損傷が著しく促進されます。 雨水が床版の上側鉄筋に到達すると、発錆によりかぶりコンクリートを剥離させ舗装のポットホールの原因となります。 積雪寒冷地では、凍害や塩害を促進します 3)

床版の疲労に対応する工法例

 「コンクリート標準示方書 維持管理編」では、補修に期待する効果と工法の例として、下表を示しています。

表−床版の疲労に関する補修、補強に期待する効果と工法の例
期待する効果 工法例
第三者影響度、美観・景観の改善 表面処理
水の影響を除くことによる疲労耐久性の向上 表面防水層の設置
ひび割れ開口の抑制による疲労耐久性の向上 FRP接着、プレストレストの導入
引張縁への部材設置による断面剛性の回復 床版下面への鋼板等の接着、RC断面の増厚、桁の増設
圧縮側断面のせん断剛性の向上による疲労耐久性の向上 床版上面増厚、(部分)打替え
出典〕コンクリート標準示方書 維持管理編 2013年制定 P.246