鋼橋、鋼部材の補修補強

(鋼橋、鋼部材の損傷原因、補修補強工法選択、補修補強事例)

 鋼橋や鋼部材の損傷原因を整理したうえで、道路管理者の設計要領ではどのような補修補強工法が選定されるのか、その補修補強工法がどのようなものなのかを、工法毎に工事事例なども含めて紹介しています。

鋼橋、鋼部材の損傷原因

 鋼橋や鋼部材の代表的な損傷原因としては、さびが集中的に発生して板厚減少が生じる腐食、鋼材の疲労による亀裂や破断、ボルトやリベットのゆるみや破断などがあります。

 腐食

 腐食とは、鋼材にさびが集中的に発生し、さびの進行により鋼材の板厚減少や断面欠損が生じている状態です。

 全面腐食は金属表面が均一な環境にさらされているときに、塗装などの被覆防食機能に劣化や異常が生じて全面が均一に腐食する現象です。 一般に全面腐食はゆっくり進行するため、腐食し始めてから短時間で構造物に重大な悪影響を与える状態になることはあまりありません。

 腐食しやすい環境としては塩分の飛来する海岸部や、凍結防止剤の影響を受ける橋梁があげられます。 腐食しやすい箇所としては漏水が多かったり帯水しやすい桁端部や支承部周辺などや、塗装が難しい継ぎ手部や角部などが、腐食のおそれがあり点検が難しい箇所としてはトラス橋の主構部材が床版などに埋め込まれた箇所などがあげられます。

 局部腐食は腐食が局部に集中して生じる現象で、早い速度で腐食が進むために注意が必要です。 局部腐食のうち異種金属接触腐食は、例えば、普通鋼にステンレスボルトを用いた場合に、ボルトの周辺の普通鋼が著しく腐食する現象です。 また、隙間腐食は、鋼板を隙間がある状態で重ね合わせたときに生じる腐食です 1) 2)

疲労

疲労によるトラス橋斜材の破断の写真

疲労によるトラス橋斜材の破断

写真出典〕中部地方整備局HP

http://www.cbr.mlit.go.jp/road/ir/gyouseki19/01/index.html

 疲労とは、繰返し荷重を受けて鋼材の強度が減少し、亀裂が発生し破断に至る現象です。

 鋼橋の疲労損傷は、ひとつには、溶接の形状が悪かったり溶接に欠陥があったために、その周辺に応力集中が生じて亀裂を生じる場合があります。 また、平成14年の道路橋示方書改訂までは一般に疲労の影響を考慮してこなかったため、応力集中が生じるような構造ディテールになっている場合もあります。

 鋼材の亀裂は様々な箇所に生じますが、重車両の通行が多い橋梁で、応力集中が生じやすい部材の断面急変部や溶接接合部、部材同士の接合部に多く現れています 2)

 鋼製橋脚隅角部の疲労損傷

 鋼製橋脚の疲労損傷は特に隅角部に生じていることが多く構造上の影響も大きいことから、平成14年に『鋼製橋脚隅角部の疲労損傷臨時点検要領(平成14年5月、国土交通省道路局国道課、CAESAR』が定められ、隅角部の溶接部近傍における疲労損傷の発生の有無の確認や損傷の対応などが行われました。

 この要領は、橋梁定期点検要領においても、「鋼製橋脚隅角部の亀裂損傷に対する点検検査には参考にできる」ものとされています。

 鋼床版の疲労損傷

 現在の鋼床版はデッキプレート厚が16mm以上とされていますが、平成21年頃までは厚さ12mmのたわみやすい形状が主流でした。

 このため、大型車交通量が多い路線の、供用から10〜30年程度経過した鋼床版の輪荷重直下で、Uリブとデッキプレートとの溶接部の疲労損傷が多く報告されています。

 鋼床版の下面に生じた亀裂は下から確認できますが、デッキプレートに進展した亀裂は舗装に隠れているため発見しにくいという問題もあります。

 その他の疲労損傷着目箇所

 例えば、ソールプレート前面溶接部や桁端切欠きR部のような、鋼橋において特に損傷が発生しやすい箇所が、「橋梁定期点検要領 付録-2 対策区分判定要領 3.損傷の主な着目箇所(平成26年6月、国土交通省国道・防災課」などに示されています。

 ゆるみ・脱落

 鋼部材の接合には、溶接の他に古くはリベットが使われ、1960年代頃からは高力ボルトが使われています。

 リベットは、リベット軸の剪断抵抗と、リベットと孔壁との支圧によって力を伝える支圧接合をされているため、リベットの頭部が腐食しても軸が健全であれば応力伝達に支障はありません。

 高力ボルトの多くは、高力ボルトで継手材片を締付けて材片間の摩擦力で応力を伝達する摩擦接合をされているため、高力ボルトが緩んでいると応力伝達に支障が生じます。

 高力ボルト(F11T)
説明‥の写真

高力ボルト(F11T)の破断・抜け落ち

写真出典〕郡山国道事務所プレス

http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/kisya/kisyah/images/58482_1.pdf

 昭和40年代から昭和55年(1980)まで使用されていたF11TとF13Tという規格の高力ボルトは、遅れ破壊をおこして突然ボルトが抜け落ちることがあります。 F11Tかどうかはボルトのヘッドマークで確認できます。 F11Tの実態を調査し対応方針等を検討するため『橋梁に使用している高力ボルト(F11T)の対策について(平成14年7月、国道国第148号)』がだされており、F11Tが用いられている場合には、ボルト片の落下防止対策をしたり、F10T等のボルトに交換することとなっています。

鋼橋、鋼部材の補修補強工法選択

 いくつかの道路管理者が公表している設計要領等に示されている、鋼橋の劣化損傷に対する補修工法や補強工法の選定パターンを下表に示してあります。

 鋼橋の損傷に伴う応急措置として、亀裂についてはストップホールを設けたり、桁の損傷を仮受けすることがあります。

 腐食対応では塗り替え塗装が行われますが、より防食機能が高い溶融亜鉛めっきや金属溶射を行う場合や、水が入り込まないように伸縮装置や橋面の止水・防水を行うこともあります。

 断面減少や亀裂、破断の対応では、当て板補修や、主部材でない場合は部材交換が行われることが多いようです。

 耐荷力が不足している橋梁の補強として、桁の増設や桁断面補強が行われることもあります。

表―設計要領等に記載されている鋼橋の補修補強工法
  地方整備局 自治体
  北陸

3)
中部

4)
中国

5)
四国

6)
九州

7)
山形

8)
福島

9)
新潟

10)
山梨

11)
長野

12)
静岡

13)
愛知

14)
佐賀

15)
長崎

16)
塗装・防食  
ストップホール工法           
溶接部の補修            
当て板工法          
加熱矯正工法             
部材交換工法            
高力ボルト取替工        
部材補強工法              
構造系の変更              
図表出典〕当サイト作成

鋼橋、鋼部材の補修補強事例

 塗装・防食

 鋼材の腐食や塗装の劣化に対して行なう鋼橋の塗替え塗装は、道路管理者によって、ライフサイクルコストを重視して重防食塗装へ塗替えることを基本としている場合(Rc-T)と、当面の維持補修費を重視して防食下地を設けない重防食塗装(Rc-V)や、既設塗装での塗り替えを原則としている場合(Ra-V)とに分かれています。 また、特に厳しい腐食環境にある橋や部材では、溶融亜鉛めっきや金属溶射が用いられる場合もあります。

 塗替え塗装の要否や、塗装の仕様、素地調整(ブラスト、ケレン)のレベルは、塗装のさびやはがれの程度、劣化の範囲、旧塗膜の種類、ブラスト処理ができるか否かなどにより選定します。

 全面的な劣化の場合は全面塗替え、桁端部、連結部、下フランジ下面などの塗膜劣化が著しい部分のみを塗替える部分塗替え、重防食塗装でボルト部などの塗膜が損傷した場合は局部補修を行います。

 また、腐食環境を改善するため、漏水・耐水対策を講じたり、塗膜厚の確保がしにくい部材の角部を面取りすることも行なわれています 17)

 ストップホール工法

 ストップホール工法は、鋼材の亀裂の先端に丸い穴を開けて、可能であれば高力ボルトを挿入して締め付ける工法です。 亀裂先端部の応力集中を緩和し、亀裂の進展を一時的に防ぐことができます。

 小さな亀裂の対応として用いられる他、当て板補修などを行なうまでの応急対策としても行なわれています。 亀裂の先端が解らない場合は、磁粉探傷試験などで確認します 9) 12) 13) 14)

 溶接部の補修

 溶接部に初期の小さな亀裂が生じた場合には、グラインダーなどにより亀裂を削り取って滑らかに仕上げることで応力集中を低減させる削り取り工法が用いられます。

 溶接欠陥により発生した亀裂をグラインダーなどで除去して再溶接して補修する溶接補修工法も用いられます。

 溶接ビート止端部の形状が好ましくないなど溶接形状により局部的な応力集中が生じている場合などには、溶接ビード止端部を再溶融して応力集中を緩和するTIG処理工法や、高周波ピーニング、グラインダー仕上げ、ハンマーピーニングなどの補修方法が用いられます 9) 12) 13) 14)

当て板工法

当て板補修の写真

 当て板工法は、腐食により鋼部材が減厚したり断面欠損を生じた箇所の補修や、亀裂の補修、耐力増加が必要な鋼部材の補強をする基本的な工法で、損傷箇所を取り囲むように当て板をあて、高力ボルトで摩擦接合することが良く行われています。

 ストップホール工や溶接補修工と併用されることも多く、損傷材の表面が腐食により凹凸が激しいなど、損傷材と当て板との摩擦力の確保が難しい場合などには、接着剤を充填をすることもあります 6) 9) 13) 14)

 なお、亀裂の補修補強では、振動している供用中の橋梁の溶接が難しいこと、加熱により鋼材が硬化脆化すること、昭和40年以前の鋼材は溶接により層状の割れなどを生じる可能性が高いことなどから、溶接による補修は極力避けることが望ましいとされています 2) 6)

 積算基準の橋梁補修工に『現場溶接鋼桁補強工』が掲載されており、施工フローは、足場の設置 → 部材の製作 → 塗装の除去 → 部材取付 → 現場溶接工 → 補修塗装 → 足場の撤去となっています。

 加熱矯正工法

 加熱矯正工法は、自動車や船の衝突で生じた鋼材の局部的な変形などを、バーナーで鋼材を加熱して変形抵抗を小さくして、ジャッキなどを用いて矯正する工法です。

 加熱による鋼材の硬化脆化を考慮して行なう必要があります 5) 9) 12) 14)

 部材交換工法

 部材交換工法は、損傷が著しい二次部材や変形の大きな二次部材などを取り外し、新しい部材を高力ボルトなどで取り付ける工法です。 損傷部材撤去時の安定性を確認し必要に応じて仮受け材などを設置することと、応力の再配分により周辺の部材に大きな応力増がないかの確認が必要です 5) 9) 10) 12) 13)

 高力ボルト取替工

 高力ボルト取替工は、高力ボルトが緩んで部材同士の摩擦接合ができなくなっているときや、ボルトやリベットが脱落や破断をしたり腐食して断面が欠損しているときに、耐荷力を回復するとともにボルトの落下による第三者被害を防ぐために、新しい高力ボルトに取替える対策です。 一部の高力ボルトにゆるみや脱落が確認されたときに、全ての高力ボルトを取替ることも良く行なわれています。

 F11Tが使用されている場合、遅れ破壊をするおそれがあるので、脱落が確認された場合には落下防止措置を講じるかボルトを交換します。

 リベットを高力ボルトに変更する場合や、設計時より規格が劣るボルトに交換するときは、継手部の照査が必要です 6) 10) 12) 13) 14)

 部材補強工法

 部材補強工法は、主に主桁や主構の引張部材に、カバープレートを高力ボルトで接合するなどして断面の剛性を高めたり、掛け違いの切り欠き部などの構造的に弱い部材を補強したりする工法です。

 主桁などを補強する場合は、既存構造で発生している応力状態と、仮設ベント等で支持しているときの応力状態、補強後の応力状態を、補強しない部材を含めて確認して行なうことが必要です 3) 11) 13)

 また、鋼床板の補強には、鋼床板デッキプレートの上に鋼繊維コンクリート舗装をするSFRC舗装などが用いられています。

 構造系の変更

 部材応力を低減するために主桁等の増設やケーブルなどを用いたプレストレスの導入が、また、局部的に応力が集中している部材の応力低減を図るため、部材の改良が行なわれています 3) 11) 14)

 積算基準に『桁連結工』が掲載されており、施工フローは、現地調査 → 交通規制 → 仮設材搬入 → 足場・防護装置 → 芯出し素地調整 → 桁連結装置(材料費) → 既設物撤去 → 現場孔明 → 現場溶接(必要に応じて) → 連結板取付 → ボルト締め → 現場塗装 → 検査 → 足場撤去となっています。

 なお、RC床版をPC 床版、合成床版、鋼格子床版、または鋼床版に取り替えて死荷重を低減する方法については、『RC橋、RC部材の補修補強事例 > 床版取替工法』を参照してください。

積算

 「国土交通省土木工事積算基準」に、下表の歩掛りが定められています。 また、表に「○」がある工種は施工パッケージに、「□」がある工種は市場単価になっています。

 積算基準にない工種は、「橋梁架設工事の積算(日本建設機械施工協会)」を活用することができます。

表−橋梁の補修・補強の歩掛
工種 適用
橋梁補修工
橋梁補修工(現場溶接鋼桁補強工) 橋梁補修工のうち,桁補強を目的とする部材取付等の現場溶接作業に適用する。なお,亀裂補修は含まない。
桁連結工 桁連結工における芯出し素地調整,現場孔明,連結板取付,現場溶接(溶接脚長8〜12mm の場合),ボルト締めに適用する。
横断歩道橋補修工 横断歩道橋における橋面・階段部の補修作業に適用するものとする。
市場単価
橋梁塗装工 市場単価方式による,橋梁塗装工に適用する。