RC橋、RC部材の補修補強事例

(橋面防水、ひび割れ補修、断面修復、シート接着、鋼板接着、床版増厚、増桁架設、電気化学的防食‥‥)

 鉄筋コンクリートの橋や部材を補修補強する際は、様々な工法を用いたり、複数の工法を組み合わせて適用します。

 それぞれの工法がどのようなものなのかを、工法毎に工事事例を含めて紹介します。

床版陥没時の緊急対策

 RC床版の一部が抜け落ちるなどの、局部的に生じた交通不能に対して交通の確保を行うための緊急対策として、鋼板や覆工板を敷き並べたり、コンクリートの部分打替えを行なう方法があります。

 なお、国土交通省では、不具合発生時の支援体制を整えています。

橋面防水工法

 橋面防水工法は、橋面舗装と床版の間に防水層を設け、床版に水が入らないようにする予防保全的な工法です。 RC床版に水が浸入すると劣化が著しく促進されますが、床版等の防水を行なえば劣化の進行速度を落とせます。

 二方向ひび割れが生じているRC床版に水が浸入すると、ひび割れの網細化と角落ちが促進され、床版の陥没までひび割れが進みやすくなります。 積雪寒冷地では、床版上面に塩害や凍害などによる劣化が見られることがありますが、これらの劣化も水が存在すると促進されます 11)

 このため、いくつかの道路管理者は設計要領などで床版防水工が未施工の場合には設置することを原則としています 2) 9) 10)

 積算基準の橋面防水工(市場単価)には、シート系防水と塗膜系防水が掲載されています。 佐賀県のマニュアルには導水パイプや端末処理材などの設置方法が示されています 10)

ひび割れ補修工法

 ひび割れ補修工は、ひび割れ部に樹脂を塗布、注入、充填して、ひび割れから侵入する水分や塩化物によるコンクリートの劣化や鋼材の腐食を防ぐ補修工法です。 ひび割れの幅やひび割れ部の挙動などにより、表面処理工法、注入工法、充填工法が使い分けられます 3) 4) 5) 6) 7)

 積算基準の橋梁補修工には、『ひび割れ補修工(低圧注入工法)』と『ひび割れ補修工(充てん工法)』が掲載されており、充てん工法の施工フローは、足場設置 → ひび割れ面のカット( → コンクリート殻積込み・運搬・処分) → ひび割れ部の清掃 → プライマー塗布 → 充てん材の充てん → 仕上げ → 足場撤去となっています。

表面保護工法

 表面保護工法は、コンクリート表面に被覆材や含浸材を塗ることで劣化因子の侵入を防いで劣化の進行を抑制して耐久性を向上する予防保全的な工法です。

 表面保護工法には表面被覆工法と表面含浸工法があり、断面修復工法などの耐力を回復する工法と併用されることが多くなっています 4) 6) 9) 12)

表面被覆工法

 表面被覆工法は、コンクリート構造物の表面を樹脂系やポリマーセメント系の材料で被覆して、塩分や炭酸ガスなどの劣化因子の侵入を防ぐ被覆を形成することで、構造物の耐久性を向上する工法です。

 塗布剤は劣化要因の遮断とひび割れに追随する性能が求められ、実務的には塩害、アルカリ骨材反応、中性化など防ぎたい劣化の形態と、ひびわれの進行が進んでいるか止まっているかで塗布剤を選びます。

 積算基準に『橋梁補修工(表面被覆工(塗装工法))』が掲載されており、施工フローは、下地処理 → プライマー塗布 → 下塗り(パテ塗布) → 中塗り → 上塗りとなっています。

表面含浸工法

 表面含浸工法は、コンクリート表面に含浸剤を塗布してコンクリート表層部の組織を改質することで耐久性を向上する工法で、主に、撥水型(シラン系)含浸工法と緻密化型(けい酸塩系)含浸工法が用いられています。 施工は一般に1工程で完了し、外観は変わりません。

 撥水型(シラン系)表面含浸材は、コンクリートの表層部に含浸してコンクリートの水酸基と結合をした疎水基を生成することで撥水層を形成して、コンクリートの外部から供給される水を撥水する一方で、コンクリート内部の水分は外部へ発散できるようになり、外部からの水や塩化物イオンなどの侵入を抑制します。

 緻密化型(けい酸塩型)表面含浸材は、コンクリート表層部に含浸してコンクリートの組織を改質するもので、コンクリートへのアルカリ性の付与や、表層部などの強化または緻密化を目的とするものです。

断面修復工法

 断面修復工法は、鉄筋の発錆などにより剥離・剥落したコンクリートや、劣化したコンクリートを取り除いた断面欠損部などを、断面修復用のセメントモルタルや樹脂モルタルなどで元の形状寸法に戻す補修工法です。

 復旧部の大きさなどにより、「左官工法」「モルタル注入工法」「吹付け工法」などが使い分けられます。 「左官工法」は、欠損部にモルタルを塗り断面を復旧する工法です。 「モルタル注入工法」は、欠損部に型枠を組み立ててモルタルを打ち込んで断面を復旧します。 「吹付け工法」は、ポリマーセメントモルタルなどを吹付けて既存の構造物と一体化する工法です。

 脆弱化したコンクリートを取り除き鉄筋をはつりだして健全なコンクリートと一体化することと、鉄筋のケレンと防錆処理を行なうことが必要です。 必要に応じて、顕著に腐食した鉄筋の交換や増設を行なったり、アンカーを用いて一体性を強めて施工することも行なわれます。 断面修復工法は、当初の性能・形状に戻す工法のため、劣化因子を取り除く工法を併用しないと、再度、劣化をしてしまいます 2) 4) 6) 9)

 積算基準に『橋梁補修工(断面修復工(左官工法))』が掲載されており、施工フローは、コンクリートはつり(カッター工含む) → 鉄筋ケレン・鉄筋防錆処理(必要に応じ計上) → 断面修復(左官)(プライマー含む)となっています。

剥落防止工法

 剥落防止工法は、剥落による第三者被害を予防するもので、連続繊維シートやメッシュを接着する工法、耐荷性と延伸性のある塗膜で保護する工法、ネットを設置する工法などがあります 4) 6)

連続繊維シート接着工法

 連続繊維シート接着工法は、炭素繊維シートやアラミド繊維シート、ガラス繊維シートなどを鉄筋コンクリートの引張面に樹脂で接着して一体化したり、巻き付けて、曲げ耐力やせん断耐力を向上する補強工法です。 繊維の方向や積層の枚数により補強の度合いを調整します。

 床版の下面に炭素繊維シートを接着して床版の耐荷力不足を補う補強が多く行なわれており、梁や橋脚に巻き付けて曲げ補強やせん断補強を行なう場合にも用いられます。

 床版の場合、劣化の進行を確認するために格子状に貼り付けることも行なわれています。 床版のひび割れが進行してせん断抵抗を失うぐらい劣化している場合には、単独での適用は適しません 2) 5) 7) 9)

 積算基準の床版補強工に『炭素繊維接着工法』が掲載されており、施工フローは、足場設置 → 下地処理 → クラック処理 → プライマー → 不陸修正 → 炭素繊維シート接着(墨出工含む) → 仕上塗装 → 足場撤去となっています。

鋼板接着工法

 鋼板接着工法は、厚さ4.5〜6mmの鋼板を鉄筋コンクリートの引張面に樹脂で接着して一体化し、耐荷力を向上させる補強工法です。

 床版の下面に鋼板を接着する場合は、比較的広幅の板を接着する方法と、短柵状の板を並列する方法とがあります。 コンクリート桁の下面や側面に鋼板を接着して耐荷力を補うことも行なわれています。 コンクリートと鋼板の接着にはアンカーボルトと樹脂材料が用いられ、接着の方法は注入法が良く使われています 3) 5) 7) 9)

 積算基準の床版補強工に『鋼板接着(注入)工法』が掲載されており、施工フローは、足場設置 → 下地処理 → クラック処理 → アンカーボルト取付 → 鋼板取付 → スプライス板取付 → シール工 → 樹脂注入 → 表面仕上 → 塗装 → 足場撤去となっています。

床版下面増厚工法

 床版下面増厚工法は、床版の下面に補強鉄筋を沿わせ、ポリマーモルタルを吹付けたりコテ塗りをして既設床版と一体化して、床版厚と引張鉄筋を増やして耐荷力を高める補強工法です。

 既設床版との付着力が補強効果を左右するため、サンドブラストやウォータジェットなどで下地処理を行ないます 2) 5) 8) 9)

床版上面増厚工法

 床板上面増厚工法は、床板上面に鉄筋コンクリートを打ち足して床板厚を増して耐荷力を向上する補強工法です。

 既設コンクリート床版の上面を切削し、ブラスト等で研掃をした後、鋼繊維補強コンクリート(SFRC)を打設するか、網鉄筋等を配置してコンクリートを打設して、既設床板と一体化します。 施工には通行止めが必要で、縦断線形の変更や死荷重の増加を伴います 2) 5) 7) 9)

増桁架設工法

 増桁架設工法は、床版を支持する既存の桁の間に、新たに桁を増設して床版の支間を短くすることにより、床版に作用する曲げモーメントを減少させ床版の耐荷力を向上する補強工法です。 既存の横桁の上に新たに縦桁を増設する縦桁増設工法などが良く行なわれています 2) 3) 5) 7)

 積算基準の床版補強工に『増桁架設工法』が掲載されており、施工フローは、足場設置 → 既設部材撤去 → 現場削孔 → 下地処理 → クラック処理 → 増桁取付 → ボルト締め → シール工 → 樹脂注入 → 表面仕上 → 塗装 → 足場撤去となっています。

床版打替工法・床版取替工法

 床版打替工法や床版取替工法は、破損した床版を部分的にまたは全面的に取り除き、新しい床版に代える工法です。

 床版打替工法としては、現場で鉄筋コンクリートを打つ工法、工場で製作された型枠や鉄筋などのパネルを据え付けてコンクリートを打設する方法などがあります。

 床版取替工法は、工場で製作されたプレキャスト床版を現場に据え付ける工法で、数種類の床版が作られています。

 床版の更新の範囲や交通規制の影響、床版荷重の増加による影響などを踏まえて工法の選定を行ないます 2) 3) 5) 7)

外ケーブル工法等

 外ケーブル工法は、桁などの部材の外側にPC鋼材を配置してプレストレスを導入して、部材の曲げモーメントやせん断力に対する耐荷力を向上する補強工法です。

 床版の増厚に伴う荷重増の対応や、橋梁の耐荷力の向上などの際に採用されています。

 PC鋼材の代わりに炭素繊維プレートなどの素材が緊張材として使われることもあります 2) 6) 7)

構造系の変更

 コンクリート部材の補強が必要で、上述の補強方法では所要の耐荷力が得られない場合には、支柱などの増設やコンクリートや鋼材で重ね梁にする工法、部材を取り替える工法などが考えられます 3) 例えばゲルバー部の補強のために、方杖支柱を設けることなどが考えられます。 7)

電気化学的防食工法

 電気化学的防食工法は、コンクリートの表面とコンクリート内の鋼材の間に電流を流すことでおこる電気化学的反応を利用したもので、電気防食工法、脱塩工法、再アルカリ化工法などがあり、主に塩害や中性化の補修に用いられます 13)

 電気防食工法は、主に塩害を受けたコンクリート中の鋼材に電流を流し続けて鋼材の腐食の進行を止める工法です。 脱塩工法は、塩害を受けたコンクリート中の塩化物イオンを外へ移動させて除去する工法です。 再アルカリ化工法は、中性化したコンクリートにアルカリ性溶液を浸透させて鋼材が腐食しないpHに戻す工法です。 いずれの工法も断面修復等の他の工法では充分に対応できない場合に用いられているようです 4) 6) 8)