甲州古道(小仏峠)の整備

都道516号、神奈川県道516号浅川相模湖線
(東京都八王子市、神奈川県相模原市緑区)

 現在の甲州街道は大垂水峠で都県境を越えていますが、江戸時代に甲州道中として整備されたのは、小仏峠を超える現在の都県道516号浅川相模湖線のルートでした。
 このルートのうち小仏峠付近の2.7kmは自動車が通れない都県道ですが、ハイキングコース「甲州古道」として整備されています。

甲州街道の整備の概要と甲州古道

浅川相模湖線の地図

浅川相模湖線の概要

図表出典〕地理院地図を当サイト加工

 現在の甲州街道は大垂水峠(おおだるみとうげ)で東京都と神奈川県の都県境を越えています。

 江戸時代に5街道のひとつである甲州道中として整備されたのは、小仏峠(こぼとけとうげ)を越える、現在の都県道516号浅川相模湖線のルートでした。

 明治13年(1880)に明治天皇が甲州・東山道を巡幸された際は小仏小休所で馬車から輿(こし)に乗り換えて小仏峠を越えました。 峠には天皇が休憩されたことを記念する碑が建っています。

 明治時代に甲州街道の難所の改良として小仏峠を通っていたルートが、現在の国道20号の大垂水峠を経由するルートに付け替えられたため、都県道516号浅川相模湖線は幹線道路としての役割を終えました。

 小仏峠付近の約2.7kmは自動車の通行ができない都県道ですが、江戸時代の甲州街道のルートを辿ったハイキングコース「甲州古道」として整備されています。

甲州街道(都県境)の整備史

東京都と山梨県を結ぶ道の概観

 現在、東京都と山梨県を結ぶ主要な道路としては、青梅街道や相模湖付近で神奈川県を経由する中央自動車道、甲州街道(国道20号)などがあります。 これらのルートは、難路のため戦国時代までは地域内の交通を担う道路に過ぎず、幹線道路ではありませんでした。

 現在の青梅街道にあたる道は、多摩川を上流に上り、大菩薩山嶺を大菩薩峠か柳沢峠で越える道筋です。 大菩薩山嶺を越える道と、多摩川に沿って下る道が険しいため幹線道路ではなく、江戸時代や明治時代に順次整備されて幹線道路となりました。

 現在の中央自動車道は、JR中央線とともに東京都と神奈川県の境を小仏トンネルで抜け、大菩薩山嶺を笹子トンネルで抜けています。 笹子峠は戦国時代には山梨県内の郡内地方と国中地方を結ぶ道として機能していました。 小仏峠は戦国時代には幹線道路ではなく、江戸時代に甲州道中として整備されました。

 現在の甲州街道(国道20号)は、江戸時代に整備された小仏峠を通る甲州道中が、明治時代に大垂水峠につけかえられた道です 1)

戦国時代

 現在の山梨県と東京都を結ぶ道は険しい道が多かったため、戦国時代までは、山梨県から南の静岡県に出て東海道などで東京に向かう道と、山梨県から秩父往還(ちちぶおうかん)で北に向かい雁坂峠などを経て埼玉県に出て南下するルートが幹線道路として使われていました

 例えば、永禄12年(1569)に甲州の武田信玄が関東の北条氏を攻めて八王子等で戦った滝山合戦では、武田軍の主力部隊2万人は碓氷峠(うすいとうげ)を越えて群馬県から埼玉県を通って八王子に攻め込みました。 このとき、小山田信茂が率いる別働隊1000人が小仏峠を越えて滝山城の背後を突きました。 小仏峠から大軍が攻めてくることを想定していなかった北条氏は窮地に追い込まれています 2)

甲州街道の整備

明治天皇小仏峠御小休所碑の写真

明治天皇小仏峠御小休所碑

写真出典〕当サイト撮影(H30.7)

 江戸幕府は東海道、中山道、日光道中、奥州道中、甲州道中を江戸の五街道として整備しました。 甲州道中は、東京都の日本橋から山梨県の甲府を経て長野県の下諏訪に至る約210kmの道路で、45の宿場も整備されました。 小仏峠はこの頃に建設された新道で、1590年以降に開通しました 1)

 甲州道中を参勤交代に使う藩は3つしかありませんでしたが、甲州が幕府直轄の天領で、金の産出地でもあったために公用の交通が多くありました 3) 。 甲州道中は江戸から小仏峠や大月、富士吉田を経由して富士山に参詣する観光ルートでもありました 4)

 明治13年(1880)に甲州・東山道を巡幸された明治天皇は、都県道516号線の小仏小休所までは馬車で来て、その先は馬車が通れる道ではないため輿(こし)に乗り換えて、小仏峠を超えました。 峠には天皇が休憩されたことを記念する碑が建っています 5)

 明治時代になって、甲州街道の難所の改良として小仏峠を改良するか、他の峠にルートを変更するかが検討されました。 現在の甲州街道の大垂水峠(おおだるみとうげ)を通るルートは、明治17年(1884)に着工され、明治21年(1888)5月に竣工し、小仏峠を通るルートは幹線道路から外れました 6)

ハイキングコース「甲州古道」と東海自然歩道

ハイキングコース案内図

ハイキングコース案内図

図表出典〕相模湖観光協会 甲州道中歴史案内図(一部当サイトで加工)

https://sagamiko.info/image/pamphlet/008_rekishiannaizu.pdf

 江戸時代の甲州街道のルートがハイキングコース「甲州古道」として整備されています。 現地に指導標が整備され、観光協会観光協会がマップを作るなどしています。

 ハイキングコースのルートと都県道516号浅川相模湖線は、八王子市側の車道部と、小仏峠をはさむ自動車交通不能区間では一致していて、相模原市側の車道部では違う道がハイキングコースになっています

 また、小仏峠から相模原市側の自動車交通不能区間は自然公園歩道である東海自然歩道として指導標などが整備されています。