橋梁の点検

 道路法第42条により、すべての道路管理者に『道路橋定期点検要領』や『横断歩道橋定期点検要領』に基づく定期点検が義務づけられています。
 法令の定期点検以外の点検は道路管理者によって異なっていますが、当サイトでは「日常点検」「定期点検」「特定点検・異常時点検」の3つに分けて紹介しています。

橋梁の日常点検

 国土交通省の『橋梁の維持管理の体系と橋梁管理カルテ作成要領(案)(平成16年3月31日、国土交通省道路局国道・防災課長通知、四国技術事務所』では、道路パトロールに関連する点検として、「通常点検」「中間点検」「異常時点検」を位置づけています。

通常点検

 通常点検は、通常の道路巡回のなかで主として道路パトロールカーの車内から目視で構造物に支障や損傷が生じていないかを確認する点検です。 国土交通省の通常点検では、異常が見られた場合のみ記録して管理、蓄積することとされています。

 東北地方整備局は、橋梁保全の視点から道路パトロール時の点検ポイントをまとめた『パトロール時の異常発見(案)(橋梁編) (平成22年12月、東北地方整備局 道路部を公表しています。

中間点検

 定期点検を補うために定期点検の中間年に実施するもので,既設の点検設備や、路上や路下からの目視を基本とした点検です。 中間点検は、橋梁の外観を目視により点検する内容と、直近の定期点検結果等を踏まえて的を絞って重点的に点検する内容に大別され、前者の結果については,「巡回日誌(定期巡回)」をもって記録とすることとされています。

 中間点検をどのように行なうかは道路管理者毎に定める問題ですが、例えば、遠望目視を許容しているため定期点検に用いることはできない点検要領を中間点検に用いることも考えられます。 国土技術政策総合研究所は、著しい劣化の有無など道路橋の健全度の概略を簡易に把握するための『道路橋に関する基礎データ収集要領(案)(平成19年5月、国土技術政策総合研究所』を公表しています。

異常時点検

 地震,台風,集中豪雨,豪雪等の災害や大きな事故が発生した場合や、通報や日常点検で異常を知った場合、橋梁に予期していなかった異常が発見された場合などに行う点検です。 異常時点検のうち,地震や台風などの災害や大きな事故が発生した場合に実施する点検について、国土交通省は異常が見られた場合のみ記録として管理、蓄積するものとし,異常を記載している「巡回日誌(異常時巡回)」をもって記録とするものとしています。

 東北地方整備局は、地震後の道路橋の緊急点検と復旧に向けた補修や補強の検討のための応急調査の参考となる『道路橋の震災時緊急点検・応急調査の手引き(案)Ver.1.0 (平成24年2月、東北地方整備局 道路部を公表しています。

法定の定期点検

 国土交通省は、省令及び告示の規定に基づいた具体的な点検方法を示した道路局名の道路橋定期点検要領や横断歩道橋定期点検要領を定めています。 すべての道路管理者は、この要領に基づき、「必要な知識及び技能を有する者が」「近接目視を基本に」「5年に1回の頻度で」点検を行い、「健全性を診断」して健全から緊急措置段階までの4段階に分類し、診断結果を保存する必要があります。

 参考に法定の定期点検の記録様式の概要を示します。

道路橋定期点検要領(令和6年改正)の概要 
健全性の診断の区分
様式1 道路橋毎の健全性の診断
告示に基づく健全性の診断の区分
V

 橋梁毎の健全性は、下記の点検技術者の主観的評価なども踏まえ、道路管理者がT(健全)、U(予防保全段階)、V(早期措置段階)、W(緊急措置段階)に区分します。

次回の点検までの間に想定する状況に対してどのような状態となる可能性があるのかの見立て (新規)
様式1 技術的な評価結果
想定する状況
活荷重 地震 豪雨・出水 その他
橋(全体として) C C A ( ) 
上部構造 C写真番号
 
B写真番号
 
写真番号
 
( )  写真番号
 
下部構造 A写真番号
 
C写真番号
 
A写真番号
 
( )  写真番号
 
上下部接続部 A写真番号
 
C写真番号
 
写真番号
 
( )  写真番号
 
その他(フェールセーフ)   写真番号
 
  写真番号
 
  写真番号
 
( )  写真番号
 
その他(伸縮装置)   写真番号
 
  写真番号
 
  写真番号
 
( )  写真番号
 

 様式2 状況写真(様式1に対応する状態の記録)
 上部構造〔 〕

状況写真

下部構造と上下部接続部の写真は省略

 新たに、次回の点検までの間に、想定する状況に対して橋がどのような状態となる可能性があるのかを見立てることとなりました。

 想定する状況は下記のとおりです。

  • 活荷重‥通常の供用では極めて起こりにくい程度の重量の車両の複数台同時載荷などの過大な活荷重状況
  • 地震‥一般に道路管理者が緊急点検を行う程度以上の規模が大きく稀な地震
  • 豪雨・出水‥橋の条件によっては被災可能性があるような稀な洪水等の出水
  • その他

 近接目視で得られた情報から、上記の状況がおきたときの状況を、点検技術者の主観的評価として言える程度の技術的水準及び信頼性で評価して、次のA、B、Cに区分します。 構造解析や精緻な測量、高度な検査などは求められていません。

  • A:何らかの変状が生じる可能性は低い
  • B:致命的な状態となる可能性は低いものの何らかの変状が生じる可能性がある。
  • C:致命的な状態となる可能性がある。

 評価をする部材が上部構造、下部構造、上下部接続部(支承部等)、その他(フェールセーフと伸縮装置)の5つに変わりました。

特定事象の有無と健全性の診断に関する所見 (変更)
様式3 特定事象の有無
該当部位 特定事象の有無(有もしくは無) 健全性の
診断の
区分の
前提
特記事項
(第三者被害の
可能性に対する
応急措置の
実施の有無等)
疲労 塩害 アルカリ
骨材反応
防食機能
の低下
洗堀 その他
上部構造
下部構造
上下部接続部
その他(フェールセーフ)
その他(伸縮装置)

 疲労や塩害など、次回の定期点検までに急速な状態の変化が生じる可能性がある「特定事象」は、その有無を記載します。

 特定事象がないときは点検時点での橋の状況をもとに健全性の診断の区分を行います。

 「所見」欄には「健全性の診断の区分」の決定に大きく関わる技術的見解を記載します。

様式3 健全性の診断に関する所見
所見 【上部構造】
・内部の状態によっては既に踏み抜きの懸念もあること、劣化がかなり進行し、加速する可能性が高いことからは、できるだけ早く対策を行う必要があると考えられる。
・床版コンクリートの劣化は、主桁への水の供給源ともなっていると考えられ、この点も考慮した対策とする必要がある。
・床版の修繕を行うときに、併せて、桁内部の状態に対して調査し、耐荷力の評価や、被覆のやり直しなどの検討をするのがよい。

 下部構造と上下部接続部の所見は省略
記載例の出典〕【資料3-1】定期点検要領(技術的助言)の改定案第20回道路技術小委員会 配付資料
様式3 健全性の診断に関する所見の記載例(その2)
所見 例〕上部構造について、床版下面に床版ひびわれや漏水・遊離石灰が見られる(事実)。 床版コンクリート断面内部でひび割れが広がっており、貫通していると考えられることから、すでに疲労の最終段階であると考えられる(推定)。 以上より、大型車の通行の影響により突発的に抜け落ちに発展する可能性が高く、既に荷重を直接支持する機能が大幅に低下している可能性が高いことからは(根拠)、できるだけ早期に(切迫性)床版全体の耐荷力の回復(措置の目的)を行うべきである(方針)
記載例の出典〕状態の把握に関する参考資料【道路橋】《暫定版》 Ver4 P.143
廃止様式等
廃止された様式(抜粋)
部材名 判定区分
(T〜W)
変状の種類
(U以上の場合
に記載)
備考
(写真番号、
位置等が分かる
ように記載)
上部構造 主桁 U 腐食 写真1、主桁02
横桁 U 腐食 写真1、横桁02
床版 V ひびわれ 写真2、床版02
下部構造 T
支承部 T
その他

 廃止された状況写真(損傷状況)
 上部構造(主桁、横桁) 【判定区分: U 】 写真1

状況写真

主桁02、横桁02

 改正前の道路橋定期点検要領では、様式に部材毎の変状の情報やその状況写真を残すこととされていました。 令和6年改正の道路橋定期点検要領では、この様式がなくなっています。

様式作成上の留意点 (当サイトの懸念)

 旧様式の「変状の種類」と「写真」を業務に活用してきた管理者は多いと思います。
 これらの情報を引き続き活用したい場合、「様式3 所見」と「様式2 状況写真」に活用したい情報を記載するか、法定点検の成果に追加して旧様式の成果も求める必要があります。

 橋梁に詳しい担当がいない組織では、要領の改正前は、様式をまとめた後で関係機関に対応の相談していたことも多いと思います。
 新様式では、様式をまとめる段階で一定の技術力が求められます。

 委託で点検を行う場合に、受託者と委託者の立場の違いが影響することがあり得ます。
 様式1の「見立て」をする際、受託者は、万が一問題が生じたときに見落としていたと言われないためには、相当可能性の低いことも指摘せざるを得ない立場です。 委託者は限られた予算人員のなかで、相当可能性の高いことに限って対応をする立場です。 様式1でBやCの評価が多い場合、双方の考え方をすりあわせないと、対応が必要な橋梁の情報が埋没してしまいます。

国土交通省の定期点検

 道路管理者は、法定の要件を満たす独自の定期点検要領を作成して定期点検を行なうことができます。 国土交通省等が管理する道路の点検要領は「国土交通省道路局国道・防災課」名でだされており、各道路管理者は必要に応じて参考にできるものとされています。

 国土交通省の要領は、長寿命化修繕計画を検討するために必要な基礎的な資料を取得することも目的として、細分された部位・部材区分毎に、損傷の状況を把握し、維持管理業務の流れを踏まえた対策区分に判定したうえで、健全性の評価を行うこととしています。

 また、初期点検を供用開始後2年以内に行うこととしています。 初期欠陥の多くは2年程度で現れることから、初期点検の結果と比較することで、その後の経年劣化の把握が容易となります。

 国土技術政策総合研究所からは定期点検に関するテキストが出されています。 点検の参考となる道路橋の損傷事例が、道路局や国土技術政策総合研究所から出されています。 日本道路協会から、「道路橋補修・補強事例集(2012年版)」が出版されています。

自治体の定期点検

 法定の定期点検を行うことは自治体の義務ですが、定期点検でどのようなデータを集め、どう活用していくかは、それぞれの自治体で決める問題です。 自治体によっては、独自に定期点検要領(点検マニュアル)を定めているところもあります。

 自治体が公表している点検要領のなかには、国土交通省の点検要領に準拠しているものや、国土交通省の点検要領の一部を簡略化したものがある一方、例えば、橋長15m未満などの小規模な橋梁やボックスカルバートなどは法定の点検要領に準じた点検としている自治体もあります。 また、独自に、石橋の点検要領を定めているものもあります。

橋梁の異常時点検・特定点検

 橋梁の損傷事例が多い『塩害』、『アルカリ骨材反応』と、疲労のうち『鋼製橋脚隅角部』については、定期点検とは別に、それぞれの事象に特化した特定点検のための点検要領が定められています。 また、過去に行われた異常時点検等の要領も、同様の事象が起きたときに使うことができます。

 当サイトでは、『塩害』や『アルカリ骨材反応』の点検等については、『RC橋、RC部材の損傷原因』のページで、『鋼製橋脚隅角部』の点検等については、『鋼橋、鋼部材の補修補強』のページで紹介しています。

橋梁における第三者被害予防措置

 コンクリート部材の一部の落下による第三者被害の可能性のある損傷の点検と、発見された損傷に対する応急措置(叩き落とし作業)について、『橋梁における第三者被害予防措置要領(案)(平成28年12月、国土交通省国道・防災課、四国技術事務所』があります。

第三者被害

第三者被害を予防するための橋梁点検の対象範囲の例

図表出典〕橋梁における第三者被害予防措置要領(案)

https://www.pwri.go.jp/caesar/manual/pdf/201703.daisansya-youryou.pdf

 平成25年の道路ストックの総点検では、道路利用者及び第三者の被害を防止する観点から、橋梁本体部材及び橋梁附属施設の損傷状態を把握するための点検が行なわれ、『総点検実施要領(案)【橋梁編】(平成25年2月、国土交通省道路局、道路ストックの総点検』が用いられました。 この要領では、応急措置として「コンクリート部材のうきをハンマーでたたき落とす」「ナットのゆるみの再締め付け」「落下可能性のある部品等の撤去」が例示されています。

 なお、点検の結果がW(緊急措置段階)となった場合の措置については、『橋梁の維持管理 > 点検・診断結果に基づく措置』の項目で紹介しています。

損傷状況の把握と対策区分の判定

 橋梁の損傷状況の把握と対策区分の判定には、国土交通省が管理する道路橋の点検に用いられる『橋梁定期点検要領(令和6年7月、国土交通省国道・防災課』が参考になります。 要領に示されている判定の区分は、次のようになっています。

表−橋梁の損傷区分の把握と対策区分の判定
判定区分 判定の内容や状況
E1、E2 緊急対応が必要
(落橋の危険や、コンクリート塊の落下により第三者に被害を与える可能性が高い場合など)
S1、S2 補修の必要性を判断するために詳細調査か追跡調査が必要
(アルカリ骨材反応の疑いや乾燥収縮によるひびわれの進展を見極める必要がある場合など)
M 維持工事で対応可能(支承や排水施設の土砂詰りなど)
C1、C2 次の定期点検までに補修が必要
B 補修を行う必要があるが、次の定期点検までに構造物の安全性が著しく損なわれることはない
A 損傷が認められないか、損傷が軽微で補修を行う必要がない

橋梁点検の積算

 国土交通省が道路橋定期点検業務積算資料(暫定版)(令和5年3月)を公表しています。

点検の資機材や機械

 橋梁の点検は、交通規制も不要で容易にアクセスできる橋梁から、交通管理者、鉄道事業者、河川管理、港湾管理者などと協議しないと点検できない橋梁まで多岐にわたるので、必要な資機材や機械も異なってきます。 近接目視をするための梯子などや、部材を見るための掃除に用いるワイヤブラシなど、現場の状況にあわせて資機材を用意しなければなりませんが、一例として持ち物のリストを示します。

表−服装と持ち物の例
装備(着衣等) 作業着、ヘルメット、安全帯、安全チョッキ、安全長靴、安全靴、懐中電灯、胴長、作業用革手袋、防塵マスク、保護ゴーグル
装備(点検、調査機器類) 筆記具(野帳、ボールペン、チョーク、看板など)、点検調書などの様式や図面類、地図、鏡、双眼鏡、撮影機器、スケール(鋼製巻尺、コンベックス、ノギス、クラックスケール)、距離計(簡易レーザー測距器など)、下げ振り(傾斜計・水平儀)、水糸、検尺ポール、スタッフ、点検ハンマー、打音棒(打診棒)
装備(工具類) カッター、小刀、スクレーパ、ワイヤブラシ、ビニールテープ、マーキングスプレー、防錆スプレー、携帯ノコギリ、鎌等(草刈り用具)
安全対策 交通規制用資機材(停車板、パトランプ、点滅棒、ラバーコーンなど)、梯子(縄梯子)、脚立、ロープ
その他の資機材 予備バッテリー、予備メディア類、充電器、電源ケーブル、携帯電話、ラジオ、救急品(絆創膏、包帯など)、酸素濃度計(酸欠となる恐れが想定される箇所での調査が予想される場合)、風速計(高所作業の場合)、熱中症対策キット
その他の備品 ティッシュ(除菌シート・ウエットティッシュ)、雨具、ライフジャケット(船舶への乗船が想定される場合など)、予備燃料、土嚢袋(清掃時のゴミ収集などに利用できる)
出典〕道路橋の定期点検に関するテキスト、P.4-46〜47
橋梁点検車

橋梁点検車

写真出典〕Wikipedia(キナン耕作さん)(リンク切れ)

点検の結果

点検結果

T 構造物の機能に支障が生じていない状態
U 構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態
V 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態
W 構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態

橋梁の判定区分毎の施設数と割合

図表出典〕道路メンテナンス年報(概要)

 点検の結果は、国土交通省が『道路メンテナンス年報』として公表しています。 それによると、2巡目の点検は概ね100%となっています。

 これまでの点検の診断結果を見ると、0.1%がW(緊急措置段階)、8%がV(早期措置段階)となっています。