箱根旧街道西坂

(静岡県三島市、函南町)

 箱根旧街道西坂は、江戸時代の東海道を引き継いだ道路です。 石畳や松並木など江戸時代の街道の風情が残る区間が国史跡になっていて、路線バスなどで廻りやすくなっています。

箱根旧街道西坂の概要

 江戸時代の箱根を越える東海道のうち、神奈川県側を東坂、静岡県側を西坂と言っています。 東坂にも西坂にも石畳の道や並木などが残っていて、それらが「箱根旧街道」として国の史跡となっています。 箱根旧街道東坂は別のページで紹介しています。

 このページでは、西坂の国史跡となっている石畳や並木を中心に紹介しています。 国道1号の旧道には、三島駅から箱根峠を経て元箱根港までの路線バスが1時間に1本程度、途中の山中バス停までは1時間に1〜2本程度運行されています。 例えば、山中城跡から笹原バス停まで歩くと、2.1km程のコースになります。

路線の案内図

※ 縮小や拡大ができる路線の案内図です。 マーカーにマウスを置いたり、画面にタッチすると、交差点名等が表示されます。
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箱根旧街道の史跡等の概要

 箱根旧街道の史跡のうち、石畳並木については神奈川県側の記事で紹介しているため、西坂の略史のみを簡単に紹介します。

箱根旧街道西坂の略史 

 箱根の小田原方では、明治37年(1904)に国道1号のルートで芦ノ湖畔までの車道が整備され、大正8年(1919)には路線バスも運行されるようになっていました。

 三島方では石畳の徒歩道が使われ続けていましたが、幅員8m(4間半)の自動車道が大正12年(1923)に完成し、大正13年(1924)には路線バスも走るようになりました 1) 2) 。 自動車道が別のルートをとったために残された石畳の道は「旧街道」と呼ばれるようになりました

 その後、登坂車線などがある笹原山中バイパスの笹原工区(令和2年)、山中工区(平成28年)、三ツ谷バイパス(昭和62年)、塚原バイパス(昭和52年)などが整備され 3) 、国道1号はバイパスのルートに変更されています。 「国道1号の旧道」は三島市などに移管されていますが、路線バスは概ね旧道を通っています。

 1) 東海道行脚(五)道路の改良、第10巻第3号、1928)
 2) 函南町誌 中巻 P.80(函南町デジタル化資料
 3) 三島の国道1 国道1号三島市 地勢・歴史

箱根旧街道西坂の現況

函南町かんなみちょう内の現況

 函南町内の旧東海道のうち、箱根町側の区間は、国道1号や函南町道としてアスファルト舗装がされ自動車交通に供されています。 三島市側の区間は、甲石坂、石原坂、大枯木坂と呼ばれる函南町道で、石畳が残っている600mの区間と、当時の街道の風情が残る1.9kmの区間が国史跡となっていています。

箱根エコパーキングの歩道 
箱根エコパーキングの歩道の写真

箱根エコパーキングの歩道

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 平成15年(2003)に国道1号に箱根エコパーキングという駐車場が整備されました 1) 。 この駐車場の裏側の歩道は、石畳舗装や8体の地蔵などが整備されています。

 1) 国道1号 箱根エコパーキング整備(土木学会 第12回 地球環境シンポジウム・パネル展示)

甲石かぶといし (国史跡)
甲石坂の歩道の写真

通行止になっている甲石坂

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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甲石坂の歩道の写真

 国道1号の芦ノ湖カントリー入口バス停から函南町道を400m程度進んだところに甲石坂があります。 甲石坂は国道1号と交差した先で、接待茶屋バス停付近で国道1号や石原坂に接続します。

 甲石坂は兜石坂とも呼ばれています。 国道1号との交差までの延長571mの甲石坂には石畳があり、並木がない代りに沿道に箱根竹が生えています。

 この区間は、令和元年(2019)の東日本台風で流出したため、通行止めになっていて、国道1号の歩道に迂回するよう誘導されています 1) 。 令和5年度には災害復旧工事の詳細設計や安全対策工事が行われています 2)

 1) 史跡箱根旧街道災害復旧整備計画 P.32、34(2023年3月、函南町役場
 2) 函南町史跡箱根旧街道災害復旧整備委員会( 〃 )

甲石坂かぶといしざか (接待茶屋バス停付近)

 甲石坂の国道1号の交点から接待茶屋バス停付近の国道1号や石原坂との接続点までは、国道1号のつづら折りの中を抜ける、あまり整備されていない土の路面の道です。 この区間に行くためには見通しの悪い国道1号を横断する必要があり危険です。 現地では、この区間を通らず「箱根旧街道迂回路」として国道1号の歩道を歩くよう誘導されていて、国道1号の歩道は石畳風に整備されています。

甲石坂の歩道の写真

国道1号のつづら折りの中の甲石坂

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

甲石坂の歩道の写真

箱根旧街道迂回路とされた国道1号の石畳風の歩道

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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石原坂いしはらざか (国史跡)
石原坂の写真

石原坂の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 石原坂は、国道1号の接待茶屋バス停付近で国道1号から分岐し、幅員4m程度の町道を経て大枯木坂に接続します。 600m程度の区間に石畳が良好な状態で残っています 1)

 石原坂は石荒坂や石割坂とも呼ばれ 1) 、山中一里塚や接待茶屋跡、かぶと石、明治天皇の御巡幸を記念した碑などがあります。

 1) 史跡箱根旧街道災害復旧整備計画 P.29、30(2023年3月、函南町役場

石原坂の写真

石原坂の石畳

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

石原坂の写真

大枯木坂への接続点

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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大枯木坂おおかれきざか (国史跡)
大枯木坂の写真

大枯木坂の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 大枯木坂は石原坂に続く道で、農場前バス停付近で国道1号に接続します。 国道1号の大枯木坂の接続部には横断歩道が設けられていて、願合寺地区の石畳の道に誘導されています。 国道1号の歩道は石畳風に整備されています。

 なお、資料のなかには石原坂と大枯木坂をあわせて石原坂としているものも多くあります。

大枯木坂の写真

大枯木坂の石畳

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

大枯木坂の写真

国道1号からみた大枯木坂の接続部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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三島市内の現況

 三島市内では、旧街道が国道1号の旧道などとして整備され昔の面影が残っていない区間と、国道1号の旧道が旧街道と別ルートで整備されたために昔の面影が残っている区間が混在しています。

 三島市では、平成6〜9年度(1994〜1997)に、3億5千万円をかけて 1) 、5地区、全長2kmで箱根旧街道石畳の整備事業を行っています。 整備は、それぞれの状況に応じて、発掘された石畳を現状維持する方法から、基礎を設けて新たな柿木石を石畳風に敷設する方法まで、様々な手法が用いられ、現地にどのように整備したのかを示す看板が設置されています 2) 3) 。 また、アスファルト舗装をされた道路のなかにも案内看板が設置されている場所があります。

 1) 史跡山中城跡 発掘調査と環境整備事業の概要 P.8(三島市 文化財のリーフレット
 2) 箱根旧街道石畳三島市 箱根旧街道
 3) 箱根旧街道整備事業三島市役所

願合寺がんごうじ地区 (国史跡)
願合寺地区の写真

願合寺地区の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 箱根旧街道の願合寺地区は、国道1号の農場前バス停の先から入ります。 延長720mの石畳の道で、国道1号の旧道の山中新田歩道橋に至ります。

 山中城跡へのメインルートは、この先の腰巻地区からになりますが、山中新田歩道橋から天守台に登ることもできます。 国道1号の旧道を進むと山中バス停があります。

願合寺地区の写真

願合寺地区の石畳

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

願合寺地区の写真

山中新田歩道橋付近

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 願合寺地区の中間部の255mは昭和47年(1972)に石畳が復元されています。 その前後の区間は平成7年度(1995)に、三島市が下部基礎を設けた上に発掘された石材や新たな石材を敷いて石畳を整備しています。

腰巻こしまき地区 (国史跡)
腰巻地区の写真

腰巻地区の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 箱根旧街道の腰巻地区は、国道1号の旧道の山中バス停の先から入ります。  腰巻地区は山中城址バス停付近で国道1号の旧道と交差し、ドラゴンキャッスル前バス停の先で国道1号の旧道に合流する石畳の道です。

 山中バス停側から山中城址バス停付近までの120mは車両が通行する柿木石を石畳風に敷設した道路で、その先は石畳の道になっています。 山中城址バス停付近から、山中城跡に入れます。

腰巻地区の写真

石畳風の舗装と山中城址の入口

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腰巻地区の写真

山中城の駐車場へ降りる階段の前後の石畳

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

腰巻地区の写真

ドラゴンキャッスル前バス停付近の国道1号の旧道への接続部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 山中城址バス停付近からドラゴンキャッスル前バス停付近までの350mのうち、山中城跡駐車場に降りる階段の前後の60mの区間は下部基礎を設けたうえで出土した石畳を元の位置に戻す方法で復元されています。 その前後は石畳が少なかったり無かったりしたため、下部基礎を設けて江戸時代の石や補充した石で石畳を整備しています。

浅間平せんげんだいら地区 (国史跡)
浅間平地区の写真

浅間平地区の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 箱根旧街道の浅間平地区は、国道1号の旧道が国道1号に突き当たる山中城口交差点から入ります。 延長330mの石畳の道で国道1号旧道との交差部で上長坂地区に続きます。

浅間平地区の写真

国道1号の跨道橋部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

浅間平地区の写真

国道1号の旧道と上長坂地区との接続部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 浅間平地区では三島市が平成8年度(1996)に、石畳が良好に残っていた中央の43mでは現状維持や不足する石材を補填する部分補修をしました。 その前後の区間では、下部基礎を設けた上に不足する石材を補充したり、新たな石材を敷いて石畳が整備されました。

 浅間平地区と上長坂地区では、国道1号が箱根旧街道の下を抜けます。 この交点では、広い幅のボックスカルバートが設けられ、中央に石畳が復旧され、その両側に土手が築かれて国道1号を隠しています。

上長坂かみながさか地区 (国史跡)
上長坂地区の写真

上長坂地区の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 箱根旧街道の上長坂地区は、国道1号の旧道を挟んで浅間平地区から連続し、三島スカイウォークの駐車場の前で国道1号の旧道に合流します。

 三島スカイウォークは、1,100円を払うと橋を歩いて渡ることができる施設です。

上長坂地区の写真

石畳の復元部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

上長坂地区の写真

国道1号の旧道への接続部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 上長坂地区は延長370mで、三島市が平成8年度(1996)に、石畳が良く残っていた区間の中間部では発掘された石畳を現状維持したり、その先の区間では石畳の欠損部分だけに下部基礎を設けて石材を補充したり、区間の前後の石畳が残っていなかった区間では新しい石材を用いて石畳を整備しています。

笹原ささはら地区 (国史跡)
笹原地区の写真

三島スカイウォークの前の笹原地区の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 箱根旧街道の笹原地区は、三島スカイウォークの駐車場の前で国道1号の旧道から分岐し、笹原一里塚の前を通って、笹原バス停付近で国道1号の旧道に接続します。

 笹原バス停付近の先は、箱根旧街道のこわめし坂になりますが、この先の旧街道はアスファルト舗装がされた一般の道路です。

 1) 箱根旧街道一里塚 笹原一里塚三島市 箱根旧街道

笹原地区の写真

笹原一里塚

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

笹原地区の写真

笹原バス停付近の国道1号の旧道への接続部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 笹原地区は延長380mの農耕車が通る道路です。 三島市が平成9年度(1997)に、農耕車の通行で石畳が損傷しないよう、下部基礎を設けた上に発掘された石材を復元する方法や、基礎の上に新たな石材を敷く方法、石畳風の道路を整備する方法などを組み合わせて整備しています。

臼転坂うすころげざか (国史跡)
臼転坂の写真

臼転坂の入口部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 臼転坂は、市の山バス停の先で国道1号の旧道から分岐し、塚原上バス停付近で国道1号に合流します。 他の石畳の道が比較的近くにあるのに対して、笹原地区と臼転坂とは2.5km程離れています。

 臼転坂は恋し坂とも呼ばれる延長300m程度の石畳の道で、先に既述した5地区とともに平成16年(2004)に国史跡に指定されていますが、他の5地区のような整備は行われていません。

臼転坂の写真

臼転坂

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

臼転坂の写真

塚原上バス停付近の国道1号の旧道への接続部

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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初音ヶ原はつねがはら松並木と錦田にしきだ一里塚 (国史跡)
初音ヶ原松並木の写真

国道1号の上り線と松並木、石畳の遊歩道

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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 国道1号が伊豆縦貫自動車道と交差する三島塚原I.C.交差点の先からJR東海道線との交点の手前までの0.9kmの区間に松並木があります。

 この松並木の途中と、道路の反対側に錦田一里塚があります 1)

 松並木の終点の五本松交差点で旧東海道は国道1号からそれていきます。 五本松交差点を曲がり一部が石畳風に整備されている愛宕坂を下ると三島大社方面に向います。

 1) 箱根旧街道一里塚 錦田一里塚三島市 箱根旧街道

初音ヶ原松並木の写真

錦田一里塚

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)
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初音ヶ原松並木の写真

石畳遊歩道

写真出典〕当サイト撮影(R6.5)

 この区間では、昭和46年(1971)の現道拡幅の際に、松並木と土塁をそのまま残し、旧東海道を上り線として、下り線を松並木の外側に設けることにより松並木の保存が図られました。 また、昭和61年(1986)には、上り線の外側に石畳による遊歩道が整備されました。 なお、この区間に江戸時代の松は1本も残っておらず、すべて後年、植え替えられた木です 2)

 2) 規範事例集【道路編】P.3、5(景観デザイン規範事例集